フェルディナント・フォン・シーラッハの「罪悪」を読んで


フェルディナント・フォン・シーラッハの「罪悪」を読み終わりました。

「罪悪」は本屋大賞品約小説部門で1位になった「犯罪」の続編のような短編小説でした。

単行本で全232ページありましたが、読みやすさは「犯罪」と同じで、「犯罪」が11篇であったのに対して「罪悪」は15篇に増えていますが、中にはほんの数ページの短い作品も収められています。


第1話

第一話「ふるさと祭り」は、
街の600年祭に沸き立つ会場の幕合で、ブラスバンドの男たち8人が起こした集団暴行事件を扱った作品でした。

おぞましくも、どうにも救い難い展開の話です。

明らかに罪を犯した男たちが、証拠があがらなかったために起訴されなかったという、とても理不尽な事件でした。


第2話

第2話「遺伝子」は、わいせつ罪の前科のある老人に家へ誘われた若い男女が、老人のわいせつな行為が発端で、一時の激高した感情により老人を殺害してしまった事件でした。

その後、2人は結婚し、男の子、女の子と2人の子供にも恵まれ、19年間社会に溶け込んでまともに生活してきました。

しかし、被害者の灰皿に残っていたタバコの分子遺伝学的な分析が行われ、当時容疑者となった者たちが順に検査されました。

2人は警察へ呼び出されてなにもかも自白します。

2人は一時拘留を解かれた後、男は妻の心臓を銃で打ってから、こめかみに銃口を向けて自殺しました。

これも、なんともやるせない物語です。


第3話

第3話「イルミナティ」は、秘密結社
イルミナティにかぶれた男子寄宿学校生が引き起こした陰惨ないじめ事件の話でした。

いじめられていた男子生徒の絵画の優れた才能を高くかっていた60代半ばの女教師が、たまたま現場を通りかかって驚愕し、後ずさって足を踏み外し、5段の外階段の一番下の段の角にうなじをぶつけて、頸骨が折れ即死します。

そのことから、いじめた少年たち3人の所業が発覚します。

いじめられた少年の両親は、彼自身が描いた彼が折檻を喜んでいる姿の絵をみて、この事件を公にしたくなかったため、学校を相手取って訴訟を起こすことはしませんでした。

3人の少年たちは、17歳の未成年であったため刑事責任を問われることなく、後日、少年刑で禁錮3年の実刑を受けます。

いじめられた少年は、長い間病気を患い、後にネジ工場で働き、二度と絵を描くことはありませんでした。


第4話

第4話「子どもたち」は事務用家具の代理店を営んでいた38歳の男が、教師をしていた妻の生徒であった少女たちに対するわいせつ罪で控訴され、3年半の禁錮刑を言い渡されます。

男は妻に離婚され、刑期を終えて出所した時は42歳になっていました。

男は、サンドイッチマンをして生計を立てていましたが、ある日街角に立っていた時、たまたま当時の少女の一人を見かけます。

16歳か17歳になっていた娘を、男は後をつけ、映画館の中で包丁で刺そうとしましたが、出来ませんでした。

弁護士の「私」は事務所の階段に座っていた男から話を聞き、娘に手紙を書きます。

娘は事務所にやってきて、あの事件は全て噓だった明かしてくれ、再審では娘の友達も本当のことを証言してくれ、法廷で男に謝罪します。

男は冤罪の報奨金で小さなカフェを買い、今は彼を愛してくれたイタリア人女性と暮らしています。


第5話

第5話「解剖学」は、動物を殺してきた偏屈狂の21歳の男が、ある娘に目を付け、解剖用具を揃え、人体解剖図も暗記して、用意周到に準備をしてきました。

そして、家から出てきた娘に今まさに近づこうとして車を降りたその一瞬間、ベンツにはねられ死亡してしまったというとても短い話でした。

ベンツの運転手は過失致死罪で1年半の執行猶予付き有罪判決を受けました。


第6話

第6話「間男」は、夫婦がスワッピングを繰り返しているうちに、夫の精神がおかしくなり、妻の間男を灰皿で何度も殴って殺そうとしたため、夫は逮捕され殺人未遂罪で起訴された事件の話です。

妻は夫を救おうとして、悪いのは自分と間男だと証言します。

結局、夫は殺人未遂罪は追及されず、傷害罪で禁錮3年6か月の判決を言い渡されます。