鼓膜の石灰化について


私は、最近耳に違和感があるため、耳鼻科で、受診したところ、鼓膜が石灰化している部分があって聴力が落ちていると診断されました。

2週間隔てて、2度聴力検査を受けた結果、著しい聴力の悪化が見られないとして当面様子を診ることになりました。

診断初日に、場合によっては、大学病院で石灰化した部分の切除手術を受けることになるかもしれないと医師に言われていました。

私は、石灰化した鼓膜部分を切除後、再生化促進の薬剤を使用する簡単な日帰り手術だろうと勝手に解釈していましたが、実はそう簡単な場合だけではないことが分かりました。

a:鼓膜、b:ツチ骨、c:キヌタ骨、d:アブミ骨、e:中耳

鼓室硬化症

小児期に急性中耳炎や滲出性中耳炎を繰返したり、耳漏(みみだれ)が続く中耳炎を繰返すと、鼓膜や耳小骨の関節が石灰化や硝子変性で堅くなります。

中耳の中の鼓室が固まるので鼓室硬化と言います。

粘稠度(ねんちゅうど)の高い(ねばりけの強い)滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)(「滲出性中耳炎(中耳カタル)」)を放置しておくと、中耳に肉芽(にくげ)(増殖(ぞうしょく)した結合組織)ができてきます。

この肉芽が長年のうちに石灰化(せっかいか)、骨化(こつか)して、鼓膜(こまく)・耳小骨(じしょうこつ)が硬くなり、音の伝わり方が悪くなって難聴(なんちょう)が起ってきます。これが鼓室硬化症です。

鼓室硬化症が症状を引き起こすことはめったにありません。

一方、鼓室硬化症は、重大な難聴や、中耳または鼓膜に白っぽい白い斑点を引き起こす可能性があります。

コンピューター断層撮影(CT)を使用して、中耳に疾患が存在するかどうかを判断することができます。

難聴でよく見られる症状として、鼓膜の白いチョークのようなパッチは、鼓室硬化症でよく見られる特徴です。

真珠腫は外観は似ていますが、白さは鼓膜の外側ではなく、鼓膜の後ろ側で診られます。


治療法

鼓膜の石灰化病変を認めるだけで、聴力障害がほとんどないか、あってもごくわずかであれば、まだ治療の必要はありません。

鼓膜の振動部分が周囲の骨と固着したり、鼓膜の振動を内耳(ないじ)に伝えるための耳小骨連鎖(じしょうこつれんさ)が周辺の石灰化病変と固着したりすれば、中等度の伝音難聴(でんおんなんちょう)(「伝音難聴と感音難聴」)となります。

こうなると、聴力(ちょうりょく)改善のための鼓室形成術(こしつけいせいじゅつ)が必要になります。この手術は、硬化している病変を摘出(てきしゅつ)し、鼓膜、耳小骨の連鎖を再建します。

中耳はツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨の3つの耳小骨と、多数の小さな孔(あな)がある乳突蜂巣(にゅうとうほうそう)が収まっている空間です。

この耳小骨や乳突蜂巣に異常がある場合に行われるのが「鼓室形成手術」と「アブミ骨手術」です。

治療の軽重の程度により、軽症では、鼓膜閉鎖(鼓膜形成術、接着法)を行います。

中等症以上では、鼓膜の再建、中耳のそうじ、聞こえの改善手術の3つを行う、鼓室形成術が必要です。

手術時間は、鼓膜形成術(接着法)の場合30~45程度です(入院期間は2~3泊程度)。

鼓室形成術の場合は、状態にもよりますが1時間半から2時間半程度です(入院期間は2~3週間泊程度)。

鼓膜形成術は、局所麻酔でもできるため、入院なしで行う施設もあります。

鼓室形成術は、全身麻酔下でおこなうことが多い手術ですが、施設によって方針(麻酔の方法)が違い、また入院期間も施設や重症度によって変わります。


鼓室形成術

薬物治療では耳漏(みみだれ)に対して、一時的に緩和するために、抗生剤の内服薬や点耳薬を使用致します。

ただ、長期間抗生剤を使用すると薬剤耐性菌の感染につながることがありますので、再発を繰り返したり長引いたりする場合は手術的治療が必要となります。

手術的治療では鼓室形成術という手術法で治療します。

炎症の原因となる中耳や乳突蜂巣を徹底清掃し、洗浄を繰り返します。

長引く炎症がある場合には、中耳腔や乳突蜂巣 内には炎症性の肉芽が形成されており、これらを除去し清掃します。

耳小骨の周囲にも肉芽が充満していることもあり、その場合は、耳小骨に過度の振動を与えないよう に、いったん耳小骨を外してから清掃を行い、その後人工耳小骨などを用いて音の伝導を再建します。

鼓室形成術は、病変の進行に伴う耳小骨の状態によって3つの手術法(Ⅰ型、Ⅲ型、Ⅳ型)を使い分けます。

鼓室形成術Ⅰ型は、鼓膜に穴が開いているだけで、耳小骨に異常が認められない場合に行われます。

鼓膜の孔穴をふさぐ再建術を行うほか、鼓室内にある炎症などを取り除きます。

耳小骨連鎖は保たれているので、手術後にもともと聴こえる自然な状態に回復できます。

慢性中耳炎のうち8〜9割はⅠ型を行います。

鼓室形成術Ⅲ-c型は、耳小骨のうちツチ骨やキヌタ骨に異常があり、最も奥にあるアブミ骨には異常がない場合に行われる手術です。

ツチ骨・キヌタ骨を取り除いたうえで、鼓膜の振動をアブミ骨に伝えます。

鼓膜とアブミ骨は距離が離れているので、一般的にはその間に「コルメラ」と呼ばれる振動を伝える支柱をはさみます。

鼓膜の振動はコルメラを介してアブミ骨に直接伝わることになります。

c型の「c」はコルメラの頭文字から取っています。

コルメラの材料には、取り出した耳小骨や耳たぶの周りにある軟骨など自分の体の組織を使う場合と、人工材料であるセラミックを使用する場合があります。

鼓室形成術Ⅳ-c型では、底板と上部構造の2つで構成されているアブミ骨のうち、アーチ状の上部構造の部分が壊れているときに行われる手術です。

鼓膜の振動をアブミ骨の底板に伝える手術で、やはりコルメラをアブミ骨の底板との間にはさみ鼓膜とつなぎます。

Ⅲ型と同様、鼓膜の振動はコルメラを介してアブミ骨の底板へ伝わります。


アブミ骨手術

耳硬化症で難聴を引き起こしている場合、アブミ骨手術を行います。

アブミ骨に小さな穴をあけピストンを挿入します。

ピストンの材料としては、テフロン製ワイヤーピストン・テフロンピストンなどがあります。