水素ジェットエンジン航空機の将来

水素ターボファンジェットとでもいうべき航空機が将来の航空機として開発が進められているようです。

車に水素エンジン車があるのと同じように、従来の技術がそのまま使え、安価に実現できるのではないかと思ってしまいますが、航空機の場合、多くの課題があり、そう簡単なことではありません。

地球温暖化の防止のために、国際民間航空機関(ICAO)においても、航空輸送分野の二酸化炭素の排出を増加させない方針が示されています。

これを受けて、欧州を中心にして、水素航空機の開発の機運が高まっています。大規模風力発電等の再生可能エネルギーの発電量の変動を吸収する媒体として水素燃料を大量に製造して航空機に適用することが検討されています。

水素燃料は、バイオ燃料よりも製造コストが低く、大量生産に向いている燃料と考えられています。

川崎重工業


川崎重工業は、水素を燃料とする次世代の水素航空機向けに主要部品を開発し、2040年頃の実用化を目指す方針を明らかにしました。水素エンジンの部品や燃料タンクなどを海外の大手航空機メーカーに供給したい考えです。飛行時に二酸化炭素を排出しない水素航空機の中核技術で優位に立つことを狙っています。

川崎重工が想定するのは、水素エンジン式の航空機用の部品です。水素を燃やして推進力に変える燃焼器や、液化水素の貯蔵タンクなどを開発します。高い強度が求められる水素タンクは小型化が難しく、より効率的に搭載できる航空機の構造を研究します。航続距離2000~3000キロ・メートルで座席数150程度の旅客機への搭載を見込んでいます。

研究開発費は約180億円を予定し、9割超を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援でまかないます。30年までに各部品の試作品を地上で試す地上試験を始め、50年頃には数百億円の売り上げを見込んいます。

川崎重工はこれまで、化石燃料を使う現状の旅客機向けに胴体やエンジンの部品を製造してきました。一方、液化水素を運搬する専用船を世界で初めて建造するなど水素の貯蔵技術に強みがあり、航空機への水素供給網のあり方について欧州の大手航空機メーカー・エアバスと共同研究しています。エアバスは35年までに水素航空機を商用化する方針です。


エアバス



2020年9月、エアバスは2035年までに商用サービスを目指す3つのZEROe水素燃料コンセプトを発表しました。100人乗りターボプロップ、200人乗りターボファン、ブレンデッドウィングボディをベースにした未来的なデザインです。航空機は、燃料電池ではなくガスタービンを動力源としています。

ATI



英Aerospace Technology Institute(ATI)は、液体水素を動力源とする乗客279名の中型航空機のコンセプトを発表しました。英国政府の支援の下、ATIが主導している研究プロジェクト「Fly Zero」に参加する航空宇宙産業の専門家チームが開発します。FlyZeroプロジェクトは、10年以内にゼロカーボンの商業航空を実現することを目指しています。

この中型機の航続距離は5250海里(約9700km)です。現在の航空機と同じスピードと快適さで、ロンドン-サンフランシスコ間(4664海里/約8600km)を燃料補給なしで直行でき、ロンドン-オークランド間(9911海里/約1万8400km)は1回の燃料補給で飛行できるといいます。

翼幅54メートルの主翼に、水素を燃料とするターボファンエンジン2基を搭載。燃料の液体水素は、胴体後部にあるマイナス250℃の極低温燃料タンクと、胴体前部にある2つの小型タンクに貯蔵されます。この小型タンクは、燃料を使い切っても機体のバランスを保つ役割を担います。

燃料となる液体水素は、1kg当たりでジェット燃料として使用されるケロシンの3倍、バッテリーの60倍ものエネルギーを持ち、軽量で燃焼時にCO2を排出しません。水素燃料を使用して、大型で航続距離の長い航空機を実現することで、新しいインフラを少数の国際空港に集中させることができ、長距離フライトによる排出ガス削減への対処が期待されます。

他の分野でも水素エネルギーへの移行が進んでいることから、需要の高まりが供給コストの低減につながることが期待されており、2030年代後半には、燃費の低い新世代の高効率水素エンジンを搭載する航空機は従来の航空機よりも運用経済性の面で優れているだろうと予想されています。


CFM





ジェットエンジンの燃焼器で水素燃料が燃焼する様子を示すレンダリング。トップ画像:今回の水素燃焼実証実験に用いられ、改良されるGE Passportエンジンの分解図。画像提供:CFMインターナショナル

航空業界の脱炭素化に向けた開発が加速しています。今週、エアバス社とCFMインターナショナル社は、水素を燃料とする航空機エンジンの実証実験に向けたパートナーシップを締結したことを明らかにしました。
CFMインターナショナルはGEとサフラン・エアクラフト・エンジン社が50:50で共同出資している合弁会社です。

脱炭素化の技術開発には時間がかかるのが一般的ですが、今回パートナーシップを締結した両社はすぐに作業を始め、水素を燃料として使用した最初の試験飛行を2025年ごろに実施することを目標にしています。この実証実験がすべて計画どおりに進んだ場合、2030年代半ばには、フライト中にCO2を排出せずに乗客を運ぶ航空機が実現する可能性があります。

フランスに本拠地を構える航空機メーカーのエアバスは2020年9月、水素で航空機を飛ばす「ZEROe」プログラムと名付けられた計画を初めて明らかにしました。同時に、エアバスは水素を主要燃料とする3つのコンセプト機を発表し、ギヨーム・フォーリー(Guillaume Faury)エアバスCEOは「これらのコンセプトは、温室効果ガス排出ネットゼロに向けた世界初の民間航空機の設計およびレイアウトの研究開発とその成長のための計画です。また、2035年までの就航を目指しています。」と
述べています。

燃料を水素に換装した場合のメリット・デメリット

従来のガスタービン・エンジン ジェットエンジン燃料を水素に換装した場合のメリット・デメリットは下記の通りです。

メリット
1)高い質量エネルギー密度(3 倍)
2)CO2排出ゼロ 
3)NOx低減の可能性 
4)燃焼用燃料としての取扱いの容易さ 

デメリット
1)体積当たりのエネルギー含有量が低い(1/4) 
2)燃料の貯蔵と供給が困難
3)材料特性(水素脆性) 

その他の課題
1)持続的な供給方法(環境適合性考慮)
2)従来と異なる空港などのインフラ設備が必要 
3)環境に及ぼす多量の水蒸気排気の評価と対策が必要 

水素の比エネルギー(120 MJ / kg)は、従来のジェット燃料(43 MJ / kg)の2.8倍です。

極低温液体水素のエネルギー密度は4.1倍低い(35 MJ/Lと比較して8.5MJ/ L)が、20 K(-253°C)で冷却し、断熱されている低圧のタンクに保管する必要があります。

ガス状水素のエネルギー密度は低くなりますが、多くの場合炭素繊維で700バールに達する高圧タンクが必要で、通常の温度で保存可能です。

液体水素は、灯油ベースのジェット燃料の4.1分の1のエネルギー密度です。液体水素を貯蔵するには加圧タンクが必要です。

従来の航空機のウェットウィングではなく、胴体の円筒形タンクに保存します。これにより、航空機の胴体が長く、幅が広くなります。

水素燃焼の利点として掲げられている水素の燃焼における NOx 低減の可能性であるが、従来の炭化水素燃焼器とは異なる設計の工夫が必要です。

水素燃料航空機は CO2 を排出しない観点で温暖化効果を抑制しうる一方で、(工業活動に依らずとも多く大気中に存在する)水蒸気を従来航空機より多量に発生し、水蒸気や水蒸気に起因する飛行機雲の形成が、自然にどのような影響をあたえるかは分かっていません。