水素エンジン自動車

 トヨタ自動車が、水素エンジン自動車の開発に非常に熱心であり、カローラスポーツをベースにスーパー耐久に参戦しています。最近のニュースでは、市販も計画しているとされています。


水素自動車

水素自動車とは、水素をエネルギーとする自動車のことです。

既存のガソリンエンジンやディーゼルエンジンを改良した水素燃料エンジンで水素を直接燃焼させ運動エネルギーを得る内燃機関車と、水素と空気中の酸素を化学反応させて発電する燃料電池を搭載し、モーターで走行する自動車(水素燃料電池車)がありますが、後者は燃料電池自動車として別枠で扱うことが一般的です。

地球温暖化の原因とされる二酸化炭素や、大気汚染の原因となる窒素酸化物を出さない自動車として、近年世界では電気自動車の普及が盛んだが、これらを排出しない自動車の一つとして水素自動車もあげられます。

水素自動車は既存の内燃機関の技術を使えるメリットがあり、水素の取り扱いに関しても、すでに市販されている水素燃料電池車と共有できることから、近年普及が望まれている。

また、電気自動車が普及し始めている現在、環境にやさしく内燃機関独特の走行感も味わえる自動車として、電気自動車とは違ったマーケットを形成できるとも言われています。

安全性

水素の最低発火温度は530℃でメタンガスとほぼ同じだが、燃焼速度は非常に高いです。水素は燃焼時の爆発濃度域(燃焼範囲/爆発限界)が非常に広く、ガソリンの燃焼範囲が1.4〜7.6vol%であるのに対し、水素は4.1〜71.5vol%であることから、引火の危険性は非常に高いです。

現状のほとんどの水素自動車は圧縮した水素を燃料タンクに貯蔵しています。

この燃料タンクを加熱し続けるとタンク内のガスが膨張し、いずれ破裂します。このような破裂を防ぐため、タンクに安全弁が装着されています。また水素自動車の火災試験から、水素火炎は視認でき、火災時の周囲への影響は現行車と変わりません。

また、ガスタンクに亀裂が入った瞬間、水素は非常に軽い気体という特性から急速に大気中に放出・拡散され、一部は大気中の酸素とすぐに結合して水になるため、ガソリンの危険性と大差が無いのではないかという説もあります。

水素脆性(すいそぜいせい)

水素の物性として分子が極小のため、シリンダーブロックなどを構成する金属中に拡散・浸透し、脆くしてしまう現象(水素脆性)があります。水素脆性が起こった金属素材は脆化(ぜいか)し、塑性変形をほとんど伴わずに破壊に至る、脆性破壊が起こりやすくなります。

水素脆性は、「遅れ破壊」の原因のひとつになります。前兆がほとんどない状態から一瞬で破壊が起こるため、点検では防ぐことができず、大きな事故につながる危険性があります。


ノッキングやバックファイアー

水素レシプロエンジンでは、水素の燃焼速度が高いため吸気-圧縮過程で混合気が高温の点火プラグや排気バルブに接触した際に爆発が起こりやすく、ノッキングやバックファイアーなどが起こりやすいです(ロータリーエンジンは構造上、バックファイアーが起こりにくい)。このため、水素混合率を極めて低くする必要があり、ガソリンを用いた場合と比較すると、出力は50 %程度に留まります。


窒素酸化物が生成される

水素と空気の混合気を燃焼させた場合、二酸化炭素や硫黄酸化物は生成されませんが高温燃焼過程に酸素と窒素が共存する結果、窒素酸化物が生成されるという本質的な問題があります。


脱CO2対策車として安価に仕上がる

水素自動車は従来のエンジンを改良するだけでよいため、圧倒的に安価に仕上がるという利点もあります。そのためマツダが開発した水素とガソリンのハイブリッド自動車(RX-8 ハイドロジェンRE)の価格は、従来車よりも100万円程度高いもので済まされると予想されています。


現状は製造効率は高くない

燃料となる水素は、採掘によって得られる一次エネルギーとは異なり、水素源にエネルギーを与えて初めて得られる二次エネルギーです。

現在、水素は天然ガスなどの改質によって工業生産されていますが、前述のとおりエネルギーを消費するため、製造効率は60〜70%程度にとどまっています。一方、ガソリンおよび軽油の採掘・精製・運送(中東〜日本の場合)の熱効率は90%以上です。

総合熱効率はガソリン車・ディーゼル車よりも劣る

また、水素燃焼エンジン単体の燃焼効率は従来のエンジンと大差無いため、燃料の製造過程を考慮した総合熱効率はガソリンエンジンやディーゼルエンジンよりも劣ります。
このため、水素燃焼型自動車の大量導入によって、単純に自動車用燃料を石油から水素にシフトさせても、結局はそれ以上のペースで天然ガスの消費を招き、二酸化炭素の総排出量が現状よりも増加するという見方があります。

一方で、工業的に副産物として生成する水素を利用した場合には廃棄物の再利用となります。日本においては数百万台分の水素燃焼車の燃料を賄えるだけの水素が廃棄されているとされており、これらを回収・精製し、効率的に配分するインフラの構築が望まれています。このため、燃料の供給元となる水素ステーションインフラの整備も重大な課題となっている。

また元々水素自動車が開発されるきっかけとなっていた、石油の精製過程の副産物として出てきた大量の水素ガスは、公害対策を理由として行われてきた精製設備の更新によって水素ガスが発生しないものへと変わってきています。原料である水素の製造を伴うため、全体ではカーボンオフセットつまり環境性能の向上にあたらないとの見解は根強いです


燃料タンクの高圧化

燃料タンクについては、気体水素の密度が低く、高密度貯蔵が困難であることから、従来のガスタンク内圧(15 MPa程度)を大きく超える高圧タンクが開発されています。

現在は炭素繊維複合材にアルミ合金ライニング(内張り)を施した35 MPa級高圧タンクが各所で開発され、燃料電池自動車で実用試験に供されています。

DOE(アメリカ・エネルギー省)の試算によると、ガソリン車と同程度の走行距離を得るためには70 MPa級の高圧タンクが必要とされており、各研究開発機関がこの要求値を満たすタンクの開発をすすめています。

これらのタンクはいずれも極めて高圧の水素をガソリン程度の安全性を維持して貯蔵する必要があるため、安全性保証のために、水素充填時のタンクをライフルで撃つガンファイアテストなどをクリアする強度を持たなければならないです。このような貯蔵密度の問題を回避するために、BMWとGM、そしてGM傘下のオペルは液体水素タンクを開発し、実用評価を行っています。
液体水素は極低温であるために、断熱対策が万全でないと貯蔵されている水素が気化します。
BMWは、貯蔵開始後からボイルオフが始まるまでの時間を3週間程度まで延ばすことに成功しています。
さらに事故などでタンクが破損した場合の危険性もガソリンと同程度か、ガソリンより低いと思われます。
水素吸蔵合金の性能が向上すれば、低圧で比較的穏和な水素供給が可能なタンクが開発されると考えられていますが、現状では、吸蔵放出温度、吸蔵放出速度、吸蔵放出時の反応熱のやりとり、合金質量などの点において未解決の問題が多いです。

エタノール、メタノール、液化天然ガスなどの燃料で低公害車は既に普及

すでにエタノール、メタノール、液化天然ガスなどの燃料で低公害車は普及しています。
アルコール系燃料は技術的ハードルが低く、ブラジルでの普及やモータースポーツでの使用などもあり、安全性やインフラなどの技術も確立しています。

水素燃料は走行時に二酸化炭素を出さないという環境面でのメリットがありますが、非常に多くのデメリットがあり、それらが実用化を妨げています。


BMW

ハイドロジェン7

BMWは7シリーズをベースとして、水素とガソリンの双方を燃料に使用できるV型12気筒レシプロエンジンを搭載した750hLを開発しました。燃料として液体水素を使用したときの走行距離は約350kmです。

BMW H2RはBMWの760iのガソリンエンジンを原型としたバルブトロニックとDouble-VANOS(英語版)技術を取り入れた排気量6.0リットルのV型12気筒エンジンを搭載しています。この水素動力の高性能エンジンの出力は232馬力 (173 kW)で187.62 mph (301.95 km/h)以上に到達します。

ハイドロジェン7は、上述の2車(
750hL、H2Rの)、の成果を取り入れて開発されました。


マツダ


他社の水素自動車がレシプロエンジンであるのに対し、マツダはロータリーエンジンを採用しています。

水素ロータリーエンジンは、マツダ独自のロータリーエンジンをベースに、燃料に水素を使えるようにすることで、CO2排出量ゼロの優れた環境性能を持たせた独自のエンジンです。

水素使用に伴うエンジンの変更がわずかなため、比較的低コストで水素エネルギー車を実現できます。また、デュアルフューエルシステムによってガソリンでも走行できるため、長距離移動や水素燃料の供給施設がない地域でのドライブでも、高い利便性を発揮します。

2003年、東京モーターショーにおいて、マツダはRX-8を改良し、水素ロータリーエンジンを搭載したモデルを出品しました。水素のみによる走行距離は約150kmです。

2004年11月、試験車両がナンバーを取得。公道上での試験走行が可能となりました。燃料は水素ガスとガソリンの2種類を切り換えて使用可能となっています。両燃料を合わせて約630kmまで走行距離を伸ばしています。

2009年、プレマシーをベースに水素ロータリーエンジンで発電して電動機で走行するシリーズ式ハイブリッド車、プレマシーハイドロジェンREハイブリッドを発表しました。水素での航続距離は200kmで、ガソリンと切り替えて走行可能です。


RENESIS水素ロータリーエンジンは、電子制御ガスインジェクター方式直噴を採用しています。これは、サイドポートから空気を吸入し、ローターハウジングの頂上に設けた電子制御ガスインジェクターで水素を吸気室内に直接噴射する方式です。

NOx低減のため、希薄燃焼とEGRを採用しました。主に低負荷域では希薄燃焼を、高負荷域はEGRと三元触媒を用いています。三元触媒はベース車用のものをそのまま使用しています。

希薄燃焼とEGRの最適な使い分けにより、出力とエミッション性能の高次元での両立を実現しました。

トヨタ


2021年にスーパー耐久に参戦するORC ROOKIE Racingでカローラスポーツをベースに水素自動車に改修したマシンを第3戦の富士24時間レースに投入しました。エンジンはGRヤリスのG16E-GTSをベースとしています。

エンジンはGRヤリスとおなじG16E-GTS型の、1.6リッター直列3気筒直噴ターボを搭載します。駆動方式は4WDで、「GR-FOUR」と呼ぶ電子制御4WDシステムを搭載します。電磁クラッチで発生させる多板クラッチの押し付け力によってリアへのトルク配分を制御する仕組みで、GRヤリスが搭載するシステムとおなじです。

水素カローラはGRヤリスよりも広い後席スペースに、燃料電池車のトヨタMIRAIが搭載する高圧水素タンクを4本積みます。水素を気体の状態で70MPa(大気圧の約690倍)の圧力で圧縮し蓄えています。

トヨタ自動車は、水素をエンジンで燃焼させて走る開発中の「水素エンジン車」について市販を目指す方針を明らかにしました。走行時に二酸化炭素がほとんど出ず、脱炭素社会に向けた車として、EV=電気自動車などの電動車とは別の新たな選択肢となるかが焦点です。