アリアン6はESAの大型衛星打ち上げロケット



アリアン6 (Ariane 6) は、ArianeGroupが開発中の、アリアン5後継機となる人工衛星打ち上げ用使い捨て型ロケット (ELV) です。2022年後半の初打上を目指しています。

アリアン6の構成



開発の承認は2014年12月のESA閣僚級理事会で行われました。機体構成は、2014年夏に大きく変更され、打上能力を調節するためにA62とA64という2つのタイプで構成することになりました。


A62とA64の違いは、1段目に使用されるSRB固体ブースターP120の使用本数です。

A62は2本、A64は4本を装備します。

このP120は、新たに改良されるヴェガCロケットの第1段目に共用することよって開発コストの低減を目指しています。


中央のコアブースターは2段の位置づけになり、アリアン5ECAで使われている液体酸素/液体水素を推進剤とするヴァルカンIIエンジンを使用します。

3段には中止されたアリアン5ME用に新たに開発を行っていた液体酸素/液体水素を推進剤とする再点火可能なヴィンチ (Vinch) エンジンを採用することになりました。いくつかのペイロードを別々の軌道に乗せるため、複数回燃焼をすることができます。


A62は静止トランスファ軌道 (GTO) へ5トン、A64はGTOへ10.5トンの打上能力となります。


アリアン6のフェアリングは、20 m(A64/A62)と14 m(A62)の2つのサイズがあり、どちらも直径5.4mで、炭素繊維複合材料で作られています。


スペック

高さ: 63 m 

直径: 5.4 m 

質量: 530,000–860,000 kg 

段数: 2段式

LEO へのペイロード: A64: 21,650 kg 、A62: 10,350 kg 

GTO へのペイロード:軌道傾斜角 6°、 A64: 11,500 kg 、A62: 4,500 kg


1段目SRB-固体ロケットブースター 

型式: P120

使用本数: 2 または 4

直径: 3 m 

推進剤質量: 142,000 kg

最大推力: 4,650 kN


Core stage – 1段目液体推進モジュール

型式:ヴァルカン2.1(Vulcain 2.1)

直径: 5.4 m

推進剤質量: 140,000 kg

最大推力: 1,370 kN 

推進剤: LH2 / LOX


Upper stage – 2段目液体推進モジュール

型式:ヴィンチ(Vinci)

直径: 5.4 m

推進剤質量: 31,000 kg 

最大推力: 180 kN 

推進剤: LH2 / LOX


経緯


左からウェガ、ヴェガC、アリアン5,アリアン6

アリアン6の構想はアリアン5の検討が本格化した1980年代半ばに開始されました。

当初はエルメスとアリアン5による部分再使用型打ち上げ機システムの後継と位置づけられており、完全再使用型の単段式宇宙往還機 (SSTO) とされていました。

また、これに関連して、同時期にSSTOとして検討が進められていたHOTOLをアリアン6とする報道もありました。

しかし、1990年代にはエルメスもHOTOLも景気の悪化に伴い予算難に陥り、計画は中止されました。

これによってアリアン5は使い捨て型ロケットELVとして開発が継続されることとなり、その後継機であるアリアン6も、より広範な検討が進められることとなりました。


左から日本のH-Ⅱシリーズ3機種、H3シリーズ3機種、アリアン5、アリアン6の2機種

2000年代前半には、2020年代に実現予定の再使用型打ち上げ機 (RLV) のバックアップとして位置づけられていました。

その後、2004年に開始されたFuture Launcher Preparatory Programme (FLPP) において要素技術研究が行われた結果、RLVは技術的飛躍が大きく、開発コストが高いことなどから、2020年代での実現は困難であると判断されました。

これによりRLVの実現は2030年代へ先延ばしされ、アリアン6は従来型ELVとして検討を継続することとなりました。

2008年に20種類の候補のうちからコアステージに使用する燃料やエンジンサイクルが異なる4種類の構成へ絞り込まれ、2012年から2013年にかけて最終的にPPH案が採用されました。

Pは固体燃料を意味する「Poudre(パウダー)」、Hは水素を意味する「ハイドロゲン」の頭文字です。

開発開始の最終決定は2012年11月のESA閣僚級理事会で行われ、その後、EADS アストリアムと協力会社6社が提案したロケット構成案をESAとフランス国立宇宙研究センター (CNES) が了承しました。

この段階では2021年の初飛行を目指していました。ペイロード1tあたりのコストはアリアン5ECAと比べて30%から40%減となる予定でしたが、スペースX社のファルコン9ロケットの台頭により、さらにコスト削減が必要になり、フランスとドイツの間で駆け引きが行われていました。

アリアン6は、アリアン5のように2機の衛星を同時に打ち上げるのでは無く、1機単独で打ち上げる事を考えて打上能力は低めに設定されていましたが、結局、アリアン5の後継機として2機の衛星を同時に打ち上げられる形態に戻されました。


2014年6月に、エアバス・ディフェンス・アンド・スペース社とサフラン (Safran) 社がアリアン6の新たな機体構成案を提案したことにより、従来のESAの構成案であるPPH案はご破算となりました

その後はフランスとドイツの間で政治的な駆け引きが行われました。ドイツは商業市場への強力な武器になるアリアン5ME(アリアン5 ECAの改良型)の開発を行うべきと主張しました。

ただし、既存のアリアン5ECAよりもコストは高くなるため、ESAからアリアンスペース社への支援(年間約1億ユーロ)を継続する必要がありました。

一方、フランスは、アリアン5MEよりもアリアン6を開発すべきと主張しました。

ドイツは、まずアリアン5MEを開発した後アリアン6へ移行すべきだとしましたが、フランスはそれではアリアン6のデビュー時期が遅れ商業市場を失うと反対しました

両方を開発する予算的な余裕は無いことから、結局アリアン6の開発に進むことになり2014年12月に合意しました。