咽頭がんと喉頭がんの前兆

 歳をとると、声がかすれたり、のどに違和感がある状態が多くなり、がんの前兆ではないかと心配になることがあります。


咽頭(いんとう)がん、喉頭(こうとう)がん

のどは、咽頭と喉頭に大きく分けられます。

咽頭は鼻の奥から口の奥、食道に至る部分で、喉頭は気管の上にあって空気が通り、声帯がある部分です。

のどのがんには、咽頭がんと喉頭がんがあります。

さらに咽頭がんは、がんができた場所により上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんという3つに分けられます。

のどには、発声やものを飲み込む嚥下(えんげ)、呼吸といった重要な機能がたくさんあるため、そこにがんができてしまうと、生活の質が大きく損なわれてしまう可能性があります。


リスク

咽頭がんの発症率は部位によって異なります。国内で1年間に咽頭がんと診断される人の数は、上咽頭がんで約800人、中咽頭がんで約1,800人、下咽頭がんで約1,900人です。

のどにできるがんは、とくに男性がなりやすく、50~60歳代から増加します。

また、喫煙や飲酒の習慣のある人は、リスクが高いとされています。

特に、喉頭がんは、90%が喫煙者です。

喫煙は肺がんのリスクとして知られていますが、実は、最もリスクが高いのが喉頭がんです。

また、喫煙者でもそうでなくても(受動喫煙している場合があります)、年に一度は健康診断を受けることがお勧めです。

上咽頭がんはホルムアルデヒドの取り扱い作業との関連があるといわれています(ホルムアルデヒドとは建築資材や壁紙を貼る接着剤などに含まれている化学物質のひとつで、シックハウス症候群の原因にも挙げられています)。

また、中国南部や台湾、東南アジアで発生率が高いのは、伝統的に食されている中国式塩蔵魚(貯蔵用に塩を加えた魚)でリスクが高まっているという考えが有力になっています。

また、EBウイルス(エプスタインバールウイルス)や遺伝も関係しているともいわれていますが、はっきりしていません。

中咽頭がんについては最近、子宮頸がんの発生の多くに関与しているウイルスであるヒトパピローマウイルス(HPV)が関係することがいわれてきています。

日本でもHPVに関係したタイプの中咽頭がんが20%程度あると報告されています。

下咽頭がんでは例外的に、輪状後部(声帯近くの背中側の部位)にできるがんについて鉄欠乏性貧血の女性にもみられることがあります。


生存率

咽頭がんの5年生存率は部位や病期(ステージ)、治療、年齢別などで分けるなど、集計方法によっても異なりますが、全国がんセンター協議会が公表している2007〜2009年に診断を受けた患者のデータは以下のとおりです。

本データの対象は手術を受けた患者だけではなく、放射線治療や薬物療法など何らかの治療を受けた患者が対象で集計したものです。

症状

のどのがんは、できた場所や進行度によって、自覚症状が違います。

治療の開始が早ければ早いほど完治する可能性が高まります。

そのため、飲み込むときの違和感やしみるような感じが数週間以上継続し、徐々に悪化してくるように感じた場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診するようにします。

また、首の周りにしこりのようなものがある場合にも痛みの有無にかかわらず早めに受診をするようにします。


声のかすれ

喉頭がんの60~70%は、声がかすれるので、早期発見につながる症状といえます。


のどの違和感(中咽頭・下咽頭がん)

食べ物は中咽頭から下咽頭を通って食道に行くため、ここにがんができると、飲み込みにくさやのどの違和感が生じます。

喉頭がんでも起こることがありますが、声のかすれに比べて見過ごされやすく、早期発見につながりにくいのが現状です。

下咽頭がんはのどの食道に繋がる場所になるため、食物をのみ込むときの異物感や、声のかすれ、耳の周りの痛みといった症状が出ることがあります。

下咽頭がんにかかった人の25~30%に、転移ではなく食道に別途がんが見つかることもあります。


首のしこり

がんが進行して周囲のリンパ節に転移して大きくなると、首の一部が腫れてきます。

耳閉感・鼻づまり

特に上咽頭がんに多い症状で、この症状が現れたら、がんが進行しているケースが多くみられます。

上咽頭がんではその場所から、鼻づまりや鼻血など鼻の症状がみられます。

また、耳に近いため聞こえづらさや耳の中が詰まった感じがしたり、脳の近くを通る眼球を動かす神経(主に外転神経)に影響して物が二重に見えたりすることがあります。

上咽頭は口を開けても見えづらく、症状も鼻づまりと軽く考えてしまうことがあるため、気が付いたときには進行していることが少なくありません。

手術的に切除することが困難な場所です。

さらに、脳や耳(横を通るリンパ節)に近いため、局所が治っても転移があり、予後(治療後の経過)が悪いことがあります。


扁桃(へんとう)の腫れ

中咽頭がんでは、食物を飲み込むときに違和感があったり、片方の扁桃が腫れていることで気が付く場合があります。

がんが広がると口が開けにくくなることや、息が鼻に抜けて発音しづらくなることがあります。

これらの症状が2週間以上続く場合は、がんが疑われるので、耳鼻咽喉科や頭頸科(とうけいか)を受診します。

頭頸科は、頭部や首のがんをメインに診療する科で、一部の医療機関で開設されています。


治療

治療は、大きく分けて“手術”“放射線療法”“薬物療法”の3つがあります。

のどのがんの治療は、できた場所だけでなく進行の程度によって異なります。

手術は、中咽頭がんと下咽頭がんで行われることがありますが、上咽頭がんは手術が難しい部位なため、ほとんど行われません。

切除によって生じた欠損が大きいと、そのまま傷を縫合することが難しい場合があります。

この場合は、体内の別の組織を移植して切除した部分を再建する“再建手術”を行い、可能な限り食事や発声などの機能低下を最小限で済むように工夫します。


進行していない場合

咽頭がんは初期の段階で治療を始めれば生存率も高く、機能の温存も期待できます。

咽頭がんの治療はがんの根治だけでなく機能の温存も重要な要素となることから、よりよい治療ができるよう、まずは医師に相談し、自分自身の状態を知ることが大切です。

がんが進行していない場合は、声帯を温存して根治を目指す治療が行われます。

治療法は、放射線と抗がん剤を組み合わせたものと、手術の2つがあります。

薬物療法は、手術や放射線治療の効果を高めるために、これらの治療の前に行われる場合や、手術の後に再発や転移を予防する目的で行われる場合があります。

早期がんであれば、放射線と抗がん剤による治療が行われますが、放射線だけでも根治を目指すことができます。

放射線療法は、一般的に副作用も強く出ることがあるため、患者の状態に合わせて選択されます。

また、手術による治療でも、声帯を温存して根治を目指せるようになっています。


経口的手術

今までの手術は、首や気管を切開して行われていたため、患者さんに大きな負担がかかっていました。

ところが、最近、負担の軽い経口的手術が普及してきました。

この手術は、口から手術器具を挿入して行われます。

経口的手術は傷が最小限に抑えられ、術後の入院期間は10日から2週間と短くて済みます。


進行している場合

首や気管を切開し、喉頭をすべて摘出する手術を行います。

その後、気管と首をつなげて空気を通す孔を首の付け根に開けます。

喉頭をすべて摘出すると、声帯も取り除かれるため、声を出すことができなくなります。

そのため、術後は声帯に代わる別の発声法を習得する必要があります。

また、下咽頭と食道の一部も摘出するため、小腸の一部を移植して、食べ物などの通り道を再建します。

なお、上咽頭がんは、放射線と抗がん剤による治療が中心です。

また、中咽頭がんは、放射線や抗がん剤による治療のほか、手術も行われます。

さらに、がんがほかの臓器に遠隔転移している場合は手術や放射線療法が難しいため、一般的には薬物療法が治療の中心となります。


治療後

手術によって声帯や舌などの発声や発音に関わる組織を切除した場合は、これらの機能に影響を及ぼすことがあります。

機能の損失を最小限に済ませるために、体内のほかの臓器の組織を用いた“再建手術”を行ったり、リハビリテーションにより“代用音声(食道や器具などを用いて発声すること)”の獲得を目指したりします。

また、放射線療法を行うことで口が乾きやすくなり、声がかれやすくなることもあります。

手術によって舌、食道、顎あごなどを切除した場合、食べ物を噛めなくなったり、飲み込みづらくなったりします。

一般的には“再建手術”を行い、機能の回復を目指します。

また、放射線療法の副作用で喉や食道の粘膜が荒れることで、食事が取りづらくなったり、味覚が低下したりすることがあります。

上記のほか、手術の後遺症や放射線療法、薬物療法の副作用が現れることがあります。

治療を終了すると改善するものもありますが、なかには治療後も継続して見られるものや、治療終了後数年経ってから現れるものもあります。

これらの症状が見られた場合でも、リハビリテーションや症状に対する治療により改善が期待できる場合もありますが、永久に回復が難しい場合もあり、医師と相談しながら治療を行います。