佐藤厚志の「荒地の家族」を読んで
2023年の芥川賞受賞作である佐藤厚志の「荒地の家族」を読み終わりました。
全158ページのハードブックで、割と早く読める程度のボリュームです。
東北大震災を背景として、災厄から10年以上経って復興していく片田舎の殺風景な光景を、造園業を一人親方として営む男の目線で描いています。
主人公の坂井裕治は40歳、震災の2年後、インフルエンザから肺炎になり亡くなった妻・晴海との間に小学生の一人息子、啓太がいます。
晴海が亡くなった6年後、役場に勤める同級生の河原木達也に紹介され、再婚した妻・知加子は裕治と同い年で、女子大卒業後、仙台の老舗百貨店勤務一筋で営業部の広報室長という肩書でした。
しかし、知加子の流産をきっかけに、二人の仲はうまくいかなくなり、ある日突然、知加子は家を出ていき、裕治は何度も知加子に会うために百貨店に出向きますが都度門前払いを食い、結局、知可子とは離婚することになります。
晴海が亡くなった後、裕治は実家に戻り、父親の孝ががんで亡くなった後、一人で住んでいた母親の和子に啓太の面倒を見てもらいながら、仕事に専念していました。
知加子と再婚したときに、3人で平屋に移り住みましたが、知加子が出ていった後に、啓太が和子のいる実家が良いというので、再び実家に戻りました。
裕治は高校卒業後、裕治の所属する野球部監督の藤堂から、推薦で体育大学への進学を勧められましたが、卒業してまで監督の影響下に収まるのを嫌って、その申し出を断りました。
裕治は、高校の求人ではなく、職安に出向いて、求人の中から目についた西島造園に応募して、たいして考えもせず植木職人としての道を選んだのでした。
西島造園では、重労働の上、体罰もあり、施工現場を全面的に仕切る専務の野本から、平手を食らい、足袋のつま先で脛や膝を蹴られました。
しかし、裕治は、仕事に集中し、肉体を酷使して、研ぎ澄まされ、肉体とともに魂までが上昇していく充実感を味わいます。
裕治は、河原木が役場で住民の相談を受けて持ってくる仕事は、ライン引き、ゴミの運搬、ドブさらい、草刈り、など何でもやりました。
大震災のときには、買いそろえた商売道具一式と2トントラックを津波に攫われ失いましたが、一日の休みも無く働き続け、今は目の前に積まれた仕事で手一杯になりました。
裕治は、地元の理容店に紹介されて、20歳を過ぎたばかりの村田京介を雇い、一緒に仕事をするようになります。
村田京介は、はじめこそ真面目に働きましたが、やがて時間にずぼらになり、度々無断で休むようになり、裕治は振り回されるようになります。
何度か、京介は無断欠勤を繰り返した後、仕事に出てこなくなり、裕治は職安に求人を出して、3人と面接しましたが、当面ひとりでやっていくことにしました。
裕治には、幼馴染に河原木以外に、篠原明夫がいました。
明夫は、裕治の父・孝が勤めていたコンクリート製造販売会社の元部下であった、今は70歳になる篠原六郎の一人息子でした。
彼は、大学卒業後、塗装屋に勤め、妻と生まれて間もない娘がいました。
しかし、明夫の酒癖の悪さに愛想をつかされ、二人が実家へ帰った直後に震災が発生して、明夫は妻と子供を同時に失うことになりました。
その後、群馬の自動車工場で働き、今は地元へ帰ってきて、中古車の販売会社で働いていました。
明夫は、裕治が晴海と一緒になる前に、同じ仙台の私立大学に通っていた河原木らと組んでいた大所帯のアイリッシュフォークバンドのメンバーであった晴海に思いを寄せていました。
裕治が晴海と付き合い始めると、二人に何度かいやがらせをしたことがありました。
そのため、明夫は裕治を嫌っていました。
明夫は、群馬の自動車工場で働いている頃に、健康診断で肺がんを患っていることが分かり、その後放置していたために、今では肝臓に転移していました。
そのような健康状態であるにも関わらす、得体のしれない男と、潜水具を使ってなまこの密漁をしていました。
裕治は明夫に忠告をしましたが、男と明夫は、ある日監視していた地元の漁師に捕まり、警察へ突き出されます。
幸い、明夫の体調が悪くなり、引き返して、男が明夫を病院へ連れていこうとしたところだったので、現行犯とならず、潜水具をつんでいただけということですぐに釈放されました。
明夫は、そのまま厚生病院へ入院し、検査されて、放射線治療を受け始めます。
明夫の父親・六郎は、裕治に、明夫のことをあと半年と言います。
6月のある日の夕暮れ、裕治が仕事を終えて家に帰ると、山形のさくらんぼが箱からあふれ、果物の詰め合わせが玄関に置いてありました。
和子が、明夫が持ってきたと言います。
裕治が、急いで、六郎の家へ向かいました。
家にはパトカーが止まり六郎の妻が大勢の警官に囲まれていました。
明夫は、さくらんぼを裕治と河原木に車で届け、自分の部屋で首を吊って死んでいました。
物語の要所要所で、平坦な土地を無機的な防潮堤の光景が描かれ、ある日突然海が盛り上がって人々の人生を一瞬にして絶った災忌が語られています。
