クリス・ウィタカー作、鈴木恵訳「われら闇より天を見る」を読んで



クリス・ウィタカー作、鈴木恵訳「われら闇より天を見る」を読み終えました。

本作は、2023年度の本屋大賞の翻訳部門賞に選ばれた小説です。

原題は「WE BEGIN AT THE END」ですので、「われらは終わりから始める」でしょうか。

主人公は、13歳の天使のように美しい少女ダッチェスですが、自ら「無法者」と呼ぶほど、いつも口汚い言葉を相手に対して吐く、少しひねくれた性格の子供です。

もう一人の主人公は、ケープ・ヘイブン警察の署長ウォーク(ウォーカー)、部下は女性秘書と女性補助員の2人のみ、ダッチェスの母親スターの幼馴染で45歳、若年性パーキンソン病の発症に悩まされています。

ダッチェスは、王子様のように可愛い5歳の弟ロビンの面倒を、母親スターにかわってみていました。

スターは、酒場で歌手の仕事を得ていますが、貧しく2人の子供に満足な食事を与えることができないばかりか、時に酒におぼれ、薬の過剰摂取で病院に担ぎ込まれることもありました。

ある日、スターとウォークの幼馴染ヴィンセントが、刑務所を出所して30年ぶりに、彼の祖父が残した家に戻ってきます。

ダッチェスが、弟の誕生日の贈り物を買いに街へ自転車を走らせた夜、スターが銃で胸を撃たれて死にます。

スターの家から警察へ通報したのはヴィンセントでしたが、この事件を機に、物語は急展開していきます。

ダッチェスとロビンは母親の不可解な死の後、モンタナで農場をやっている祖父ハルの元へ、警察署長ウォークによって車で送られます。

ダッチェスはその地で学校へ行くようになりますが、同級生からいじめに遭います。

街へ出た時に、片手がしなびて短い黒人少年トマスに、天使のように美しいと言われます。

学校ではトマスだけが、ダッチェスの味方であり、ある日ダッチェスはトマスにダンスパーティーへ一緒に行って欲しいと頼まれます。

ダッチェスは拒みますが、結局、ハルが選んだ黄色いドレスを着て、トマスとパーティへ一緒に出かけました。

パーティーから戻ってきたその夜、祖父のハルは何者かに腹を銃で撃たれて亡くなりました。

肉親を全く失ってしまったダッチェスとロビンは、グループホームへ送られます。

ダッチェスは、テレビでヴィンセントが陪審員裁判で無罪になったことを知りました。

そこでロビンは、母親が亡くなった夜のことを思い出し、ヴィンセントにその夜のことを誰にも言ってはいけないと言われたとダッチェスに告げます。

ダッチェスは母親のスターを殺したのは、ヴィンセントだと確信し、ロビンを一人残して、競売に出される前のハルの農場の地下倉庫から銃を持ち出してケープ・ヘイブンへ向かいます。

一方モンタナでハルが銃殺されたことに関して、ウォークは犯人は不動産屋のダークではないかと考えていました。

ウォークは、スターを殺したのはダークであり、あの夜、家のクローゼットの中にいたロビンの口封じのため命を狙ったところ、ハルにショットガンを撃たれ、反対に撃ち殺してしまったのではないかと推定しました。

ウォークは、ダークがダッチェスの行先を知るためにトマスの家を訪れるだろうと推測します。

たまたまトマスが家で一人でいるときにやってきたダークに遭遇し、逃げるダークに発砲します。

ウォークの銃弾にダークは倒れ、ウォークは、今わの際でダークの口から事件の真相を聞き出します。

スターが殺される前に、ある夜、スターが誰かに殴られて戻ってきたのをダッチェスはダークの仕業と思い込み、ダークの経営する酒場に火を付けた事件がありました。

ダッチェスは酒場の防犯ビデオのテープを抜き取り、街路に積んであったゴミの中へ紛れ込ませました。

ダークは、酒場が燃えたことにより、かけていた火災保険の支払いを保険会社に請求しましたが、防犯カメラのテープが所在不明であることから支払いが拒絶されていました。

火災の夜、自転車に乗った少女が目撃されており、ダークはダッチェスの仕業と確信して、テープを渡すようにダッチェスに迫っていましたが、スターの死後ダッチェスはモンタナの祖父ハルのもとに引き取られました。

ダークは、ダッチェスの所在を突き止め、テープを返すよう説得するため、ハルの農場を訪れたところ、のっけからショットガンを撃ち込まれたため、反撃して誤ってハルを殺してしまったというのがハルの死亡した真相でした。

ダークの妻は車の事故で既に亡くなっており、ダッチェスと同い年の一人娘マデリンは病院で意識の無いまま、生命維持装置に繋がれていました。

ダークはウォークに、生命保険で娘に治療を続けさせるため、自分を撃ち殺すように頼みます。

ウォークは拒絶しますが、結局ダークに銃を与え、正当防衛を装って射殺しました。

裁判後、ウォークは事件に関し釈然としないものを感じていましたが、自由の身になったヴィンセントが、ウォーク達が少年時代によく遊んだ木の下の穴の中に何かを隠しているのを見かけます。

ヴィンセントが去った後、ウォークが穴の中から隠したものを引き出すと、それは銃でした。

ウォークはそれを知り合いの鑑識に渡します。

しばらくして鑑識からの報告を聞くと、てっきりヴィンセントの指紋が採取されると思っていたところが、採取されたのは子供のものでした。

ウォークは、ヴィンセントに会い、事件の真相を聞きました。

あの夜、クローゼットの中から、部屋で母親と誰かが争っている音を聞いたロビンはたまたまクロゼットの中にあった銃を、閉まった扉越しに目くら状態で打ち放し、その銃弾が母親の胸を撃ち抜いてしまったのでした。

その銃は、ヴィンセントが、スター家でダークとの揉め事があると知って、ダッチェスに護身用のため与えたものですが、彼女はクローゼットの中へしまったまま忘れていました。

ある夜、ヴィンセントは、彼が刑務所へ入る原因となった、交通事故で引き殺してしまったスターの妹の墓と、並んで立つスターの墓の両方に花をたむけ佇んでいました。

そこで、銃を持ったダッチェスが迫り、ヴィンセントが近づいた先々で次々と人が死んだことを非難します。

ヴィンセントは、ダッチェスに優しく微笑みかけ、銃を向けるダッチェス向かって、その必要は無いと言いながら、断崖から海へ向かって自らの身を投じます。

ウォークは、ヴィンセントの遺灰を、生前の彼の希望通り、森の中へ撒きました。

その近くに彼がかつて収容されていた刑務所がありました。

そこの署長に会い、ヴィンセントの話を聞きました。

スターがかつて頻繁にヴィンセントに会いに来ており、ヴィンセントの罪状と収容所での素行の良さから、特別に施設外の部屋で会うことを許可していたことを聞きました。

そこでは、2人は夫婦のような時を過ごしており、そうした時の流れの中でスターは2人の子供を身ごもったと伝えられます。

特別な施設外の部屋が廃止されてから、収容所の男たちの目にさらされるのを避けるため、ヴィンセントがスターに会いに来ないよう伝えたことも聞きました。

すべての真相が明らかになった後、ウォークはパーキンソン病のため警察を退職し、事の真相に関しダッチェスへ長文の手紙を出しました。

その時には、ロビンは、ワイオミングに住む、夫が医者で妻が教師の子供のいない心優しい夫婦の家庭に養子縁組され迎えられていました。

ダッチェスは、モンタナで唯一彼女の事を理解し心配してくれた老女ドリーの養子となり、彼女の牧場で毎日を送っていました。