小規模マンションのエレベーターリニューアル


 私の住んでいる小規模マンションは、来年で30年経過となり、1基あるエレベーターのリニューアルについて、この数年間検討が続けられています。

戸数が少ないために、修繕積立金が潤沢にあるわけではないので、いかに安く済ませられるかをめぐって、住民の意見取集と議論が継続しています。


ロープ式と油圧式

ロープ式エレベーター



ロープ式エレベーターは、さらに2種類に分類されます。

1)つるべ式

2)ドラム式

近年のマンションで主流になっているのは「つるべ式」です。

エレベーターの「カゴ」にロープの一端と、もう一端を「釣合おもり」に締結して、巻上モーターで昇降速度を制御するタイプです。

従来は、エレベーター上部に巻上モーターを収納する機械室が必要でしたが、機械室が不要なルームレスタイプが登場しました。

低層から高層まで、ほとんどのマンション・オフィスビルで採用される主流のエレベーター方式になっています。

油圧式エレベーター



油圧式エレベーターも、さらに2種類に分類されます。

1)直接式

2)間接式

いずれの場合も、作動油を活用した油圧ジャッキでエレベーターを昇降させるのが特徴です。

油圧ポンプや駆動モーターを設置する機械室を必要とします。

低層マンションを中心に採用されてきたエレベーター方式です。

ただし、以下のデメリットがあります。

1)高層マンションに対応できない
2)消費電力が多い
3)エレベーターの速度が遅い

エレベーターの耐用年数

エレベーターの法廷償却耐用年数は17年、長期修繕計画ガイドライン(国土交通省)は15年目で修繕し30年目で交換、建築物維持保全協会のLCC(ライフサイクルコスト)評価指針では計画耐用年数が25年、エレベーターメーカーによる耐用年数は20~25年となっています。


法定償却耐用年数(国税庁)= 17年
エレベーターメーカー推奨の耐用年数 =20〜25年
長期修繕計画ガイドライン(国土交通省) =15年目で修繕、30年目で交換
建築物のLC評価用データ集 改訂第4版(建築・設備維持保全推進協会) =20〜25年


部品製造中止

各エレベーターメーカーは、油圧式の部品供給を2020年以降から順次停止することを発表しています。

しかし、エレベーターが生産中止になっても、ある程度の期間(20年)の保守パーツ供給がメーカーに義務付けられています。

メーカーから部品製造終了の知らせが来たら、リニューアルを検討するタイミングとなります。


エレベータ事故事例

事例1

公共住宅「シティハイツ竹芝」(23階建て)マンションの12階で高校2年生が自転車を引きながらエレベータから後ろ向きに降りようとしたが、扉が閉まらないまま急にエレベータが上に動き出し、エレベータ内部の床部分と12階の天井の間に挟まれて死亡しました。

同乗していた13階に住む女性が非常ボタンを押し、防災センターにインターホンを通じて連絡しました。

事故から約50分後、高校生は救出されて病院に搬送されましたが、胸部を圧迫されており窒息死しました。

エレベータ内にいた13階に住む女性にけがはありませんでした。

エレベータの製造メーカ(シンドラーエレベータ)から保守業者への保守点検に関する情報不足、または不十分な保守点検がもたらす点検整備不良が原因と思われます。

上昇の直接原因として、ドアが閉まっていないのに、上昇したことからブレーキの不具合が考えられます。

またドアが開いた状態では、昇降しないように制御されているが、この制御が働かなかったことから、制御系の不具合が考えられます。

戸開走行が発生した原因追及が行われましたが、当該事故が発生してから15年も経過して、東京都港区が、2021年6月24日に「シティハイツ竹芝エレベーター事故調査最終報告書」を公表しました。

事故原因は、かごを制止するブレーキを作動させるソレノイドに何らかの不具合が発生し、半掛かり状態で使い続けたためにブレーキライニングが異常摩耗した結果、ブレーキが十分に作動しなくなったと考えられています。


ソレノイドの不具合としては、コイルの層間短絡によってソレノイドの推力が低下した可能性が高いとされました。

事例2

2006年9月、品川区のビル8階で、住人の女性が連れていた犬がエレベーターの外に飛び出した直後にドアが閉まり、犬をつないでいたひもが挟まったままエレベーターが上昇したため、ひもを指に何重にも巻き付けていた女性が指4本を切断しました。

エレベーターは日立製作所製、保守点検は日立ビルシステム。

事例3

2008年12月、京都市のマンションで、エレベーターのドアが開いたまま突然降下し、降りようとしていた女性がエレベーターと床の隙間に足を挟まれ骨盤骨折の重傷を負いました。

エレベーターは東芝エレベータ社製、保守管理は東洋昇降機。

2008年10月から点検費用の削減のためエレベーターの管理会社を東芝エレベータから替えたところでした。

今までに不具合はなく、11月の点検でも異常なしでした。


不調やトラブル

トラブルの度に修理を繰り返すという状態が続くのであれば、リニューアルを行うタイミングとなります。


リニューアル費用

リニューアル・改修工事の費用相場は、工事方法によって大きく異なります。

全撤去工事の場合は1,200万円~1,500万円、準撤去工事は700万円~1,000万円、制御工事は400万円~700万円程度です。


リニューアル・改修工事の方法

三菱エレベータ

三菱エレベータ

フル(全撤去)リニューアル 

エレベーターに関連するすべてを交換・改良する手法

部分リニューアル 

使えるものはそのままにして交換・改良を一部にとどめる手法

さらに、部分リニューアルは以下の2つに分類できるため、エレベーターリニューアル・改修工事の方法は、3種類が存在することになります。

準撤去リニューアル 

建物各階に固定される「三方枠」「敷居」など、一部だけを残して新しいエレベーターに交換する手法

制御リニューアル 

三方枠・敷居などに加え、エレベーターのカゴも残しながら、巻上モーター・制御盤などの制御系パーツ・部品を中心に交換・改良する手法


フル(全撤去)リニューアル工事の方法・費用相場・工期




文字通り、既存のエレベーターを部品にいたるまですべて撤去し、新しいエレベーターに交換する工事のことです。

費用相場 約1,200万円〜1,500万円

製作日数 約50日間~120日間

工期(使えない期間) 約25日〜40日

建築確認 必要

メリット 新品にリニューアルできる

デメリット 工事費用が高額

1基あたりの費用相場は約1,200万円〜1,500万円と高額ですが、「新品のエレベーター」にリニューアルできるのが最大のメリットです。

一方、エレベーターの製作に約50日間~120日間かかるうえ、約25日〜40日程度かかる工期の間、エレベーターを使用できなくなるでしょう。


準撤去リニューアル工事の方法・費用相場・工期



部分リニューアルのうちのひとつに相当するエレベーターリニューアル・改修工事が「準撤去リニューアル工事」です。

既存エレベーターのうち、建物各階に固定される「三方枠」「敷居」など、一部だけを残して新しいエレベーターに交換する工事です。

費用相場 約700万円〜1,000万円

製作日数 約50日間~120日間

工期(使えない期間) 約15日〜25日

建築確認 必要な場合が多い(要確認)

メリット 比較的工期を短縮できる

デメリット パーツ調達に時間がかかる場合も

1基あたりの費用相場は約700〜1,000万円程度と、全撤去リニューアルよりもコストを抑えられるのがメリットです。

エレベーターの製作に約50日間~120日間程度必要なのが変わらないものの、工期を約15日〜25日程度に圧縮できるのもポイントです。

ただし、既存エレベーターが古い場合はパーツ調達に時間がかかることも考えられます。


制御リニューアル工事の方法・費用相場・工期



部分リニューアルのうちのひとつで、もっとも手間・コストのかからないエレベーターリニューアル・改修工事が「制御リニューアル工事」です。

三方枠・敷居などに加え、エレベーターのカゴも残しながら、巻上モーター・制御盤などの制御系パーツ・部品を中心に交換・改良していく工事です。

費用相場 約400万円〜700万円

工期(使えない期間) 約3日〜15日

建築確認 不要な場合が多い(要確認)

メリット 工事費用を抑えられる

デメリット 交換しない部分は別途改修計画が必要

1基あたりの費用相場を約400万円〜700万円程度に抑えられ、工期も約3〜15日前後に短縮できるのが大きなメリットです。

リニューアル・改修工事の予算が少ない場合に、既存エレベーターの状態を考慮に入れながら工事できます。

ただし、交換しないパーツ・部品に関しては、改めてリニューアル・改修計画を策定する必要があります。


油圧式制御リニューアル


油圧エレベーターは、油圧パワーユニット、油圧ジャッキ、圧力配管から構成され、パワーユニットより送られてきた油によりジャッキを昇降させる方式で運転しています。

油圧式エレベーターは、人が乗るかごをジャッキで直接押し上げる直接式と、間接的に押し上げる間接式に大別できます。

一部の独立系メーカーでは、油圧式エレベーターを、油圧式のままリニューアルする工法も開発しています。

「油圧式制御リニューアル」とも呼ばれていますが、主に制御盤、電動機、バルブ、ポンプなどの主要機器を更新し、その他は再利用する工法です。

大手エレベーターメーカーからの部品供給停止はこれら主要機器のみが対象であり、その他の油圧ジャッキやかご本体までは経年対象ではないことから、工期や費用面で採用される管理組合も増えているようです。


油圧式のエレベーターをリニューアル工事するに当たり、最低限交換が必要な部分は、制御盤と油圧ユニット・かごと乗場の操作盤・各種配線の交換になります。

既存の制御盤は全て取り外し、新しい制御盤に入れ替えます。

制御が変わるので、全て配線も交換しますし、扉の制御や安全SW・センサーなども交換します。

またかご内と乗場の操作盤も交換をしますので、操作盤が見た目で変化のある部分となります。

油圧ユニットも古いものから新しいものへと交換をします。

デメリットとして一番大きいのは、プランジャーがそのまま残るという事です。

油圧式のエレベーターというのは、大きな油圧ジャッキのような物が伸び縮みするのですが、そのプランジャーが交換する範囲には含まれていません。

昇降路内に設置されているのですが、サイズが大きくエレベーターを残したまま出し入れが出来ないので、工事後もそのまま利用します。

構造や電動機の容量などは変わらないため、スピードアップや省エネその他機能面の向上は期待できませんが、限られた予算かつ短工期でより長く延命させる手法としては検討されます。


リニューアル業者

エレベーターリニューアル業者には、エレベーターの開発・製造もおこなうメーカー系と保守管理を専門とする独立系の企業があります。

メーカー系

メーカー系のエレベーターリニューアル会社は、エレベーターの開発や製造もおこなっている会社です。

基本的には、自社製品のメンテナンスを行います。

そのため、エレベーターのメーカーによっては、対応できない場合があります。

メーカー系の会社では、エレベーターの販売費をできるだけ抑えるために、メンテナンス費にエレベーターの開発費を上乗せしていることが多くあります。

認知度拡大のための広告費もかけているケースが多く、その分コストが上乗せされることもあります。

リニューアルのコストでは、独立系よりも高くなる傾向があります。

ロープ式エレベーターが主流になっていることから、メーカー系の会社では、油圧式エレベーターの製造終了を発表しています。

そのため、油圧式については部分的なリニューアルに対応していないケースもあります。

一方で、ロープ式においては部分リニューアル・フルリニューアルともに対応しています。

エレベーターの開発・製造には莫大なコストがかかるため、必然的にメーカー系は大手の会社が中心となります。

資金も潤沢であることが多いので、広告費を投資することも多いです。

特に5大エレベーターメーカーといわれる三菱、日立、日本オーチス、東芝、フジテックは、大手というブランド力があり、安心感のある会社といえます。

下記はメーカー系エレベーターリニューアル業者です。


三菱電機ビルソリューションズ

三菱電機の関連会社で、エレベーターリニューアルを行う「三菱電機ビルソリューションズ」。

ロープ式向けの3種類のプランと油圧式のフルリニューアルプランが用意されています。

国内に約280ヶ所のサービス拠点があり、迅速に対応してくれます。

日立ビルシステム

東芝エレベータ

日本オーチス

FUJITEC(フジテック)


独立系

独立系のエレベーターリニューアル会社は、メーカー系統に属さないメンテナンス会社です。

基本的には、対応できるエレベーターのメーカーに縛りがなく、ほとんどのメーカーのメンテナンスに対応しています。

独立系のエレベーター会社は、メンテナンス専門。メンテナンス費に開発費が含まれるメーカー系に対して、コストを抑えられる傾向があります。

ただし、主要となる部品をメーカーから取り寄せるため、多少の準備期間がかかる場合もあるため注意が必要です。

エレベーターリニューアルの種類には、エレベーターを丸ごと新しくするフルリニューアルと劣化している部品だけを変える部分リニューアルに大きく分かれます。

独立系が対応しているのは、部分リニューアル。使える部分はそのまま利用するので、短工期かつ低コストでのリニューアルが可能となります。

エレベーターリニューアル業界は、1993年までメーカー系が独占していて、独立系には部品が供給されない状況でした。

そこで独立系が訴訟を行った結果、メーカー系から独立系に部品供給が行われるようになりました。

このような背景からメーカー系よりも歴史が浅く、知名度は低めですが、実績を多く積む会社も多数存在するようになっています。

独立系の業者は、開発費や広告費がかかるメーカー系と比較して、2~3割ほど価格を抑えることが可能です。

エレベーターリニューアルは、修繕の規模や種類によって費用が大きく異なるため、ほとんどの業者が相場価格を開示していません。

しかし、リニューアル後に必要となるメンテナンスの費用であれば開示している業者もあります。

リニューアル後も、エレベーターのメンテナンスは毎月必ず行う必要があります。

1回で終わるリニューアルとは違い、メンテナンスは毎月の運用コストがかかるため、トータルの費用を抑えるためにはメンテナンス費用もチェックすることが大切です。

下記は愛知県の独立系エレベーターリニューアル業者です。


株式会社AKI

現場に何度も足を運び、熱心なヒアリングを行うのが株式会社AKIの魅力的なポイントで、顧客ファーストな姿勢から、設立10年でクレーム0を誇ります。

愛知県の独立系エレベーターリニューアル業者のなかで唯一、メンテナンス費用を開示しています。

明菱サービス

明菱サービスは、主に三菱製のエレベーターリニューアルを手がけている業者です。

オフィスビルやショッピングビル、ホテルやマンションなど、幅広い施設のエレベーターリニューアルに対応しています。

また、エレベーターの定期保守点検やメンテナンスに対応しているのも特徴。

ジャパンエレベーターサービス東海

ジャパンエレベーターサービス東海は、愛知県や三重県、岐阜県でエレベーターサービスを提供している業者です。

ジャパンエレベーターサービスのグループ会社で、さまざまなメーカーに対応しています。

エレベーターリニューアルは、一括でリニューアルするプランや、制御盤のみを交換するスピーディなプランなど、ニーズに合わせたプランを提供しています。

東名メンテナンス

東名メンテナンスは、さまざまなメーカーのエレベーターに対応している業者です。

主にエレベーターリニューアルやメンテナンスを手がけています。

エレベーターリニューアルは、主に制御系のリニューアルに対応しているのが特徴です。

地震管制装置や待機階変更サービスなど、安全性や利便性向上に寄与するさまざまなオプションを提供しています。

エレベータメンテナンス

エレベータメンテナンスは、エレベーターの保守点検やリニューアル、検査などの業務を手がける業者です。

部分的なエレベーターリニューアルはもちろん、全面リニューアルにも対応しています。

また、経年劣化による汚れ・サビなどが関わるリニューアルの相談も可能です。

中部エレベータ

中部エレベータは、エレベーターのリニューアルや管理・メンテナンスに対応している業者です。

予算や要望のヒアリングや、現地調査などを実施し、適切なリニューアルプランの提案を行っています。

エレベーターリニューアル工事は、設計・施工から最終的な検査まで、自社で一貫対応しているのが特徴です。

管理契約を結べば、引き渡し後も管理・点検を委託できます。

日工

日工は、エレベーターの据付工事からリニューアルまで、ワンストップで手がけている業者です。

「快適・安全・安心」を合言葉に、スピーディな対応に取り組んでいます。エレベーターリニューアルは、利用者の不便にならないことを念頭におき、短期リニューアルを心がけています。

愛知電設

愛知電設は、多くのメーカーに対応している業者です。

創業以来、エレベーターの設計や施工、保守管理まで、自社で取り組んでいます。

エレベーターリニューアルも相談可能で、制御系やデザインなどの幅広い要望に対応しています。

また、安全対策プランも提供しており、地震管制運転装置やマルチビームドアセンサーなどの設置を相談できます。

中部菱成

中部菱成は三菱電機のグループ企業で、三菱電機ビルソリューションズが出資しています。

愛知県と静岡県を中心に事業を展開しており、エレベーターやエスカレーターのメンテナンスや修理などを手がけています。

また、予防・保全・維持の3つを重視し、設備の安全性や快適性を守るため、日々エレベーターリニューアル工事やメンテナンス、修理に取り組んでいます。