高齢者の白内障手術


最近、90代の義母が 、白内障手術を受けて、劇的に視力が改善しました。

手術に付き添った私の妻よりも、少し遠くのものがはっきりと見えるようになったと言って感激しています。


白内障

白内障とは、目の水晶体が透明度を失い、徐々に白濁していく病気です。

白内障は加齢や病気などが原因で起こる目の病気で、手術が主な治療法となります。

水晶体の機能が低下することで、光が網膜まで正しく届かず、視力が低下したり、視界が霞んだり、光がまぶしく感じるなどの症状が現れます。

代表的な症状は、霞んで見える(霧視)、まぶしく感じる(羞明)、物が見えにくい(視力低下)、ダブって見える(単眼複視)などが挙げられます。

主な原因は加齢による自然な変化ですが、糖尿病など他の病気、目の外傷、ステロイドの長期使用などが影響することがあります。

白内障は、症状が進行しても手遅れになる病気ではありませんが、日常生活に支障がある場合などは治療が必要になります。

日常生活に支障がない段階では、白内障の進行を遅らせることを目的に、点眼薬などの薬物治療が行われることがあります。

しかし現在のところ、薬では濁ってしまった水晶体を透明に戻すことはできません。

白内障は進行性の病気であり、治療が必要な場合、手術によって白濁した水晶体を取り除き、人工水晶体を挿入することで視力を回復させることが一般的です。

白内障はゆっくりと進行するので、自分自身で白内障だと気づく人は少ないです。

白内障の初期段階では症状に気付きにくく、左右どちらかの目に異常を感じても、残ったもう片方の目でカバーしようとするため発見が遅れることもあります。

白内障といえば「目が白くなる」というイメージがあるかもしれませんが、見て分かるくらいに目が白い状態はかなり症状が進行しています。

なお、進行の程度には個人差があります。


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白内障発症の年齢

白内障の発症率は年齢とともに高まり、50代で40~50%、60代で70~80%、70代で80~90%、80歳以上ではほぼ100%、が発症するといわれています。

この高い発症率は、加齢による「老人性白内障」が発症原因のおよそ90%を占めているためです。

そのほかにも、外傷性、併発性、アトピー性など、白内障には多くの発症原因があります。


手術を受ける平均年齢

白内障手術を受ける年代のピークは、70~74歳で229,298件となっています。次に多い年代は、75〜79歳で215,199件。

80歳〜84歳では147,293件で、85歳以上になると件数が少なくなっています。

また、手術件数が徐々に増え始める年齢は、55歳〜64歳くらいです。


メリット

一番大きいのは、視力がよくなることです。

白内障手術を行うことで視界がはっきりよく見えるようになります。

人工の透明な眼内レンズを挿入することで、コントラストの改善、色覚の改善も期待でき、「くっきりと鮮明に」、「色が鮮やかに」見えるようになります。

白内障が進むと、まるで曇ったガラスを見ているように世界がぼんやりと見えてしまいます。

しかし、手術を受けることでその曇りガラスが取り払われ、はっきりとした世界を見ることができるようになります。

また、色や形、明るさと暗さの違いなど、「コントラスト」がはっきり見えるようになります。白内障でぼんやりと見えていた世界がくっきりと鮮明に見えるようになります。

さらに、色覚も改善します。白内障が進むと色がくすんで見える方も多いですが、手術を受けると色が鮮やかに見えるようになります。

そして、視力が改善すると、読書、テレビ鑑賞など、日常生活がより楽しく、充実したものになります。

趣味を楽しむことができるようになり、生活全体が向上します。

白内障手術を行うことで、遠くか近く、どちらか一方は眼鏡なしで見ることができるようになることがほとんどです。

手術の際、白内障で曇った自分のレンズを取り除くと同時に、視力を調整する人工のレンズを入れるのですが、このレンズは眼鏡の役割も果たします。

このため、眼鏡を使う頻度が減り、より自由に、より快適に生活を送ることができるようになります。

白内障手術後には、眼鏡なしでも1点がはっきりと見えるようになります。

白内障手術で使う眼内レンズは基本的には単焦点レンズで、希望された1点の距離のみが眼鏡なしで見えるようになります。

これは手術により、目の中のレンズ(=水晶体)を人工のレンズ(=眼内レンズ)に取り替えることによって、ピントを合わせる力である調節力がなくなるからです。

ただし、このピントを合わせる力である「調節力」は30代から徐々に低下し、60代になると調節力がない人がほとんどだとされています。いわゆる老眼、老視と呼ばれる状態です。

そのため、60代以上で白内障手術を受けられる人に関しては、もともと老眼で、白内障手術を受ける前から遠くや手元で眼鏡を使用している人が多いので、「術後に眼鏡が必要になる」という点は大きなデメリットとならないことがほとんどです。

眼鏡なしで見える範囲を近くにするか遠くにするか、カウンセリングの中で選ぶことができます。

「近くは裸眼で、遠くを見るときだけ眼鏡をかける」という状態にすることも可能です。

眼内レンズには1点にのみピントが合う「単焦点眼内レンズ」の他に、複数の点にピントが合う「多焦点眼内レンズ」を選択することも可能です。

多焦点眼内レンズは更に眼鏡を使用する機会が減る人が多いです。

成人では通常、局所麻酔で行います。

手術の際は麻酔を使用するため痛みは少なく、短時で終わります。

麻酔は目薬で行う点眼麻酔なので、通常の注射での麻酔のような麻酔をかける際の痛みもありません。

白内障手術の特徴として、手術時間が片眼あたりたったの5~10分と非常に短く、日帰りで治療が完了する点が挙げられます。

費用面に関しても、医療制度を利用することで、手術費用を抑えることが可能です。

ただし、白内障手術は技術・機器が向上しており、リスクもほとんどありませんが、それでもまったくないとは言えません。ごく稀に合併症などが起こる可能性があります。


白内障手術に年齢の上限は無い

白内障手術には「何歳までに受けなければならない」という固定的な年齢制限はありません。

基本的に「今すぐ白内障手術を受けなければ命に関わる」ということはないからです。

ただし、視力は「生活」に深く関わる部分のため、白内障手術を行うことで、質の良い日常生活を送ることができると言えます。


白内障手術を先延ばしにした場合のデメリット

白内障手術を先延ばしにすると、じわじわと視力が落ちていくことが考えられます。

白内障は徐々に進行する病気なので、自分でも「なんだか見えにくいな」と気づかないことがあります。

特に、本を読んだり、車を運転したり、趣味で目を使うことが多い方は、白内障手術を受けることで日々の生活が大幅に楽になることが多いです。

目の病気は命に関わらないイメージがあるためか、視力低下や異常を感じても軽視されがちです。

しかし、視力に支障があれば事故の原因になったり、自立した日常生活が困難になったりするなど深刻な事態も想定されます。


白内障が進みすぎた際、手術難易度が上がることがある

白内障が強く進行した状態で行うと、手術の難易度が上がることがあります。

これは、白内障が進行すると水晶体が硬くなり、取り出すのが難しくなるからです。

早期に手術を行うことで、手術の難易度を下げ、リスクを抑えることができます。

白内障手術に年齢制限はないので、80歳以上の方でも受けることはできます。

ただし、以下の人は手術ができないか、手術のリスクが非常に高くなってしまうため主治医と相談する必要があります。

治療が難しくなる前の早期に受診することが大切です。

1)状況が理解しづらい「認知症」の人

2)水晶体が真っ白に濁ってしまった「成熟白内障」の人

3)重度の糖尿病で血糖コントロールができていない人

転倒など怪我のリスク

白内障が進行すると、視力の低下だけでなく視野が狭くなることがあります。これが意外な問題を引き起こすことがあります。

白内障が進行し、視野が狭くなると、足元の段差が見えにくくなり、転倒してしまうことがあります。

転倒による下半身の骨折は、車いす生活や寝たきりになる可能性があります。

認知症

白内障を放置していると、認知症になるリスクが高まるという研究結果が出ています。

加齢と共に進行する白内障は、この重要な情報の入り口を徐々に塞ぎ、結果として脳の機能にも影響を及ぼすことがあります。

白内障手術により、外界からの情報が脳に届きやすくなり、脳の活性化につながると考えられています。

PLOS ONE誌に掲載された研究では、白内障手術を受けた患者さんの認知症発症リスクが約30%減少することが報告されています。1

また、PubMedに掲載された別の研究では、白内障手術が認知機能の改善に寄与する可能性が示されており、特に認知症患者さんにおいては、うつ状態の改善にも効果があることが報告されています。

また、認知症により、白内障手術への理解や協力が得られにくくなり、手術を断念せざるを得ないことがあります。

認知症の人は、自分の症状をきちんと伝えるのが難しいことが多く、また、白内障手術は微細な作業が必要です。

認知症の人で、手術中に動く可能性が考えられる場合、「手術を中断せざるを得なくなる→視力を失う恐れがある」という理由で、局所麻酔での手術が難しくなる場合があります。

全身麻酔で動きを抑えることも可能ですが、局所麻酔に比べて全身麻酔はリスクが上がります。

また、認知症になると、周囲の介護負担が大きくなるかと思いますが、視力が低下したままだと、ご家族や周囲の方への負担が増大することも懸念されます。

他にも、今後身体に不調が現れた場合、手術が受けにくくなる可能性もあります。

例えば、白内障と診断されていたが、手術に踏み切る前に寝たきりの状態になってしまって病院に通うのが難しくなる場合があります。

例えば、指が不自由になってしまって、自分では手術に必要な点眼薬を差すことが難しくなることも考えられます。

これらのリスクを考慮すると、白内障の症状がある程度出た時点で、早めの治療を受けておくことがおすすめです。


白内障手術のタイミング

一般的には、日常生活で見えにくさを感じたり、眼科で視力が低下していると判定された時が、手術を検討するタイミングとなります。

かつては、手術の安全性が今以上に確立されていなかったこともあり、日常生活が困難な状態に陥ってから手術をすることが多かったのですが、現在はQOV(見え方の質)の向上を目的としておこなわれるようになっています。

白内障手術は点眼麻酔で行うため、実際は痛みもほとんどなく、5〜10分程度であっという間に終わる手術です。

白内障は視力低下だけでなく、進行とともに眼圧が上がり、緑内障を引き起こすこともあります。

また、視力低下の原因が白内障以外にもある場合も考えられます。

そのため、必ず定期的に眼科で診察を受け、担当医と一緒に白内障の進行具合を見て、手術をするかどうかを決めていくことが重要です。


白内障の手術

角膜と強膜の境目を2~3ミリ切開し、超音波で水晶体の核などを砕いて吸い取り「眼内レンズ」を挿入します。

手術自体は局所麻酔で痛みを感じることもなく数十分で終了します。

医師の執刀による従来の方法のほか、現在では手術工程の一部を、レーザー照射(フェムトセカンドレーザー)によって処置できるようになりました。

白内障手術における注意点として、万が一の失明のリスクを回避するため、同時に両目を手術することは不可能です。

両目とも手術する必要がある場合は、通常は日を分けておこないます。

手術後は目の違和感や視界不良などを生じることが多いため、自動車の運転は控えるよう指導されることが多いです。

また、白内障手術後に最も多く生じる合併症に、後発白内障があります。

術後しばらくは視力が改善していたのに、徐々に視力低下やかすみが出てくる場合、必要に応じてレーザー治療をおこなうことで、症状は改善します。

治療後には一時的に、目の前に浮遊物が見えるように感じる飛蚊症を生じることが多いです。


白内障手術費用(片眼・単焦点※保険診療)

1割負担 8,000円(※)

2割負担 18,000円(※)

3割負担 約51,000円

白内障の病状などにより、追加費用が発生する場合もあります。

1割負担、2割負担の人は、「高額療養費制度」により、同月手術の場合両目合わせて上記の金額になることがほとんどです。

日本での白内障手術は年140万件以上で、通常は保険適用となるため、患者は3割負担で片眼3万円から5万円程度です。

なお、多焦点眼内レンズに関しては「選定療養(厚生労働省認可のレンズ)」は保険診療代+レンズ代、となります。

厚生労働省未認可のレンズに関しては手術代、レンズ代ともに自費となります。

※どちらも医療費控除の対象です。

高額療養費制度は、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が還付される制度です。

医院での支払額に加え、他院の医療費や調剤薬局の支払いの1ヶ月分の合計が対象になります。

※ 限度額は年齢や世帯収入などにより異なります。

保険診療を前提とすると、ピントが固定された「単焦点眼内レンズ」しか選べません。

保険適用可能な「多焦点眼内レンズ」は1種類だけあるものの、まだ症例数が少ないです。

保険適用外の「多焦点眼内レンズ」の手術費用は、片目あたり自費で40万円から50万円ほどします。


眼内レンズはいつまで持つのか

白内障手術で挿入した眼内レンズは半永久的に使えます。

特別な理由がない限り、レンズを交換することはほとんどありません。

調整等のメンテナンスも必要ありませんが、手術の後に、水晶体後嚢(眼内レンズを入れるために残したもの)が濁ってくる「後発白内障」を生じる場合がありますが、5分程度でできるレーザーを用いた処置で治療することができます。

「知り合いが白内障手術をしたあと、また白内障になって手術を受けた」という話を聞くことがあるかもしれませんが、、ほとんどの場合、この後発白内障のことです。


白内障の手術をしたが、物が二重に見える

白内障の手術の前に片目はよく見えていなかったが手術をして両目が見えるため、網膜に映る像を脳で一つにできない、ということがあります。

多くの場合は目や脳がだんだん慣れてきて気にならなくなりますが慣れるまでの時間は個人差があります。

単眼複視は、特に乱視などの屈折異常や角膜の複雑な歪み。または涙の分泌異常によるドライアイなどがあります。

白内障が落ち着くのに最低1か月はかかります。

1か月以上たって屈折異常があれば、メガネで矯正します。

多くの場合目や脳が慣れてこれば治ってきます。

それでも治らない場合や、複視が大きい場合「プリズム」という特別なレンズを用いて二重に見えるものを一つに見えるようにすることができます。