高瀬隼子の「おいしいごはんが食べられますように」を読んで

 


高瀬隼子の「おいしいごはんが食べられますように」と読み終えました。

本作は2022年上半期第167回芥川龍之介賞の受賞作です。

登場人物は、食品パッケージを請け負う会社に勤める29歳の男性サラリーマン二谷と一つ年上の30歳の同僚女性社員の芦川、そして同じく同僚女性社員の押尾です。

二谷と芦川は職場恋愛関係で、毎週芦川が二谷の部屋へ泊りにくる関係です。

芦川は職場では押尾の先輩にあたりますが、対人業務が不得手で事務処理にも難があり、仕事面ではすぐに後輩に抜かれてしまう精神的にか弱い女性社員です。

芦川は二谷の部屋へ泊りに来る日は、手の込んだ料理を作ってくれ、二谷はオーバーともいえるほどに美味しさを表現するのですが、内心では、「食事なんてカップ麺で十分」といった価値観をもっています。

二谷は「食事はあくまで、生きるためのエネルギー」「食事に手間暇かけるのは無駄」と思っています。

芦川は、いつも体調を崩して会社を早退したり、繁忙期にも、頭痛がするといって他の社員より先に退社します。

その度に、他の社員が彼女の仕事の肩代わりをすることになります。

そのお詫びとして、彼女は職場に「手作りお菓子」を持参して上司や同僚へ配るようになりました。

職場のパート社員も含めて、その美味しさを絶賛してくれますが、二谷は芦川のそのような振る舞いに嫌悪を抱くようになります。

二谷は、手間のかかったお菓子を「すげえ、おいしそう」と受け取りますが、深夜残業で一人残ったオフィスで、お菓子をぐちゃぐちゃに踏みつぶします。

押尾は、芦川の隣の席で、なんでも一人でやり切ろうとする、いわゆる「できる社員」ですが、できない弱者である芦川にイラつき内心嫌っています。

ある朝、誰よりも早く出社した押尾は、ゴミ箱に芦川の配ったお菓子が捨てられているのを見つけ、袋に入れて芦川の机にそっと置きます。

二谷と押尾は、退社後、何度か二人で飲み屋に行く仲でしたが、かといって男と女の関係でもなく、気の合う異性の同僚といった付き合いでした。

押尾はお菓子を捨てたのは、前夜遅くまで一人で残業していた二谷以外にいないと確信し、共犯意識からか、自分が芦川の机に捨てられたお菓子を置いたことを話します。

二谷は、押尾に、自分ならお菓子は形が分からないほど潰してしまうので、形が残ったまま捨てられたお菓子は自分が捨てたものではないと言います。

押尾は、体調が悪いと言って早く帰る芦川が、手の込んだお菓子を皆に配っているのを嫌悪している者は他にもいることを知ります。


話の展開の中で登場する他の人物のエピソードが添えられています。

支店長は、「飯はみんなで食った方がうまい」というのが口癖でいつも部下たちを昼食に誘い出します。

二谷の男性上司の藤は40過ぎの既婚者で、忘年会では妻に逃げられたことで芦川にセクハラまがいのハグをしてもらい他の社員の顰蹙を買います。

古株の女性パート社員の原田は、お菓子が入った袋が芦川の机に置かれていた「お菓子事件」が起きた時に芦川から話を聞き出して上司の藤へ報告します。

結局、押尾の退職と二谷の他支店への移動が決まり、最後に二谷と芦川の結婚が示唆されて物語は終わります。