九段理恵「東京都同情塔」を読んで

九段理恵の芥川賞受賞作「東京都同情塔」を読みました。

私の妻はほんの数ページを読んでギブアップしました。

確かに、最初から、理屈っぽい独白風の文章が延々と続き、テレビで中華や韓流恋愛ドラマばかりを視ている向きには不評かもしれません。

主人公は、37歳の成功した建築家、牧名沙羅(まきの さら)です。

彼女は、現代のバベルの塔のごとく71階建ての巨大円柱タワー「シンパシータワートーキョー」の設計をした建築家です。

「シンパシータワートーキョー」は、巨額の建築費などの問題から、白紙撤回され実際には建築されなかったザハ・ハディドの新国立競技場が原案のまま建設されたという設定で、調和した建物が二つ揃って初めて、都市の風景は完成すると、牧名沙羅は考えます。

彼女は、何度かPC上でAIに質問を投げかけ、自身でも「…でなければならない。…べきだ」と無限に出てくる言葉が、彼女の内部でぽこぽこと音を立てて泡立ち続けます。

彼女自身が反問自答を繰り返す言葉が物語の中で際限なく続いていきます。

シンパシータワートーキョがーは犯罪を犯した者を収容する刑務所の施設です。

しかし、彼女は、世間的には犯罪者と呼ばれる彼女達あるいは彼等を、社会学者で幸福学者であるマサキ・セトが提唱した「ホモ・ミゼラビリス 同情されるべき人々」という呼び方をします。

彼女はある高級ブランドショップの販売員であった、彼女より15歳年下で22歳の美青年、東上拓人(とうじょう たくと)と友人になりますが、世間的にはパパ活と同義のママ活の関係でした。

拓人が「シンパシータワートーキョー」のことを日本語に直訳して「東京都同情塔」と言い直すと、牧名はいたく気に入り、あらゆる機会を捉えてそのネーミングを使うようになります。

対外的には「シンパシータワートーキョー」と呼ばれるも、日本人の間では、「東京都同情塔」と呼ばれるようになります。

「東京都同情塔」建設後、拓人が26歳の時、彼は正規職員として「サポーター(旧刑務官)」として働き、塔に住むようになります。

彼は、41歳になった牧名沙羅の伝記を書くことに集中していましたが中々上手く先へ進むことができませんでした。

そんな時、牧名沙羅から電話があり、これから夜勤で塔に見回りに出る彼は、明日の7時に彼女の住むホテルのロビーで朝食を摂る約束をして電話を切ります。

牧名沙羅は、同情塔を雨に濡れながら見上げ、塔の未来に想いを馳せ立ち尽くしている場面で物語は終わります。