鈴木結生の小説「ゲーテはすべてを言った」を読んで
鈴木結生(すずきゆうい)の小説「ゲーテはすべてを言った」は2025年1月第172回 芥川賞受賞作品です。
ゲーテ研究の第一人者で大学教授である博把統一が、ある日、妻と娘とともに訪れたイタリア料理店で、ティー・バッグに書かれたゲーテの名言を見つけるところから物語は始まります。
「Love does not confuse everything, but mixes.」と書かれたフレーズを「愛はすべてを混淆せず、渾然となす」と彼は日本語に直してみます。
しかし、そのゲーテの名言とされるそのフレーズを統一は過去に見たことがありませんでした。
彼は、言葉の出典を調べるためあらゆる資料を調べ上げた挙句、彼の知人すべてにメールを送ってその言葉をどこかで聞いたことがないかを尋ねます。
統一の元大学教授の義父から、大学院生の娘に至るまで、学者一族のアカデミックな会話、名言の数々、天の上の方で横滑りしている世界を描いているように感じられることもありますが、あくまで小説として書かれた虚構です。
タイトルの「ゲーテはすべてを言った」は、会話の中で、自分が思い付いたと分かっている言葉でも「ゲーテ曰く」と付け加えるとそれっぽくなるというものです。
統一がドイツ留学時の青年時代に、ドイツ人の友人と戯れに使っていた言葉ですが、大学教授となり、ゲーテ研究者となった統一にとって一種の呪縛のような言葉となっていきます。
