中心静脈栄養

静脈栄養には、腕などの末梢(まっしょう)静脈から投与する「末梢静脈栄養(PPN)」と、心臓に近い太い血管である中心静脈から投与する「中心静脈栄養(TPN)」があります。

食事ができない期間が1週間~10日までの場合はPPNが行われ、それ以上の長期間にわたると予想される場合はTPNが選択されます。

中心静脈栄養 TPN( Total Parenteral Nutrition トータル パレンテラル ニュートリション )

末梢静脈栄養 PPN( Peripheral Parenteral Nutrition ペリフェラル パレンテラル ニュートリション )

高カロリー輸液は、IVH( Intravenous Hyperalimentation イントラヴィーナス ハイパーアリメンテーション )などとも呼ばれますが、hyperalimentationは「多量の栄養を与える」という意味から、現在はIVHよりもTPNの方が適切であるという意見が多く、国際的にもTPNを用いる方向になっています。


中心静脈栄養とは

TPNは高カロリー輸液とも呼ばれ、高濃度の栄養輸液を中心静脈から投与することで、エネルギーをはじめ、からだに必要な栄養素を補給することができます。

栄養状態の悪い患者さんや、長期間(1週間以上)経口摂取ができない患者さんに用いられます。

通常は、糖質、アミノ酸、脂質、電解質(Na, K, Cl, Mg, Ca, P)、微量元素およびビタミンの1日必要量を中心静脈から24時間かけて投与します。


中心静脈カテーテルの留置

投与ルートとなるカテーテルは、一般的に鎖骨下静脈から挿入し、先端部を上大静脈(中心静脈)に留置します。

上大静脈は心臓に近い太い血管で、血液量が多くて血流も速いため、糖濃度の高い輸液も投与できます。

鎖骨下静脈は血管が比較的太く、カテーテルの血管内走行距離も短いので、血栓の形成が少なくなります。

高カロリー輸液は、末梢から投与する輸液に比べ3~6倍も高濃度であるため、末梢静脈から投与すると血管痛や静脈炎を起こし、やがて血管が閉塞します。

心臓に近い上大静脈は太くて血流が多く、高濃度の高カロリー輸液を投与しても瞬時に多量の血液で薄められ、血管や血球に対する影響が少なくなります。



中心静脈栄養の管理

TPNは、急に投与を開始したり、急にやめたりしてはいけません。

通常は慣らし期間(導入期)が必要で、血糖値などをみながら2~3日かけて徐々に投与量を上げていきます。

まず糖濃度の低い開始液(TPN基本液1号)から始め、その
後維持液(TPN基本液2号)を用いて1日必要量を投与します。

TPNは1日に必要な栄養素を投与するため、糖濃度の高い液となります。

高濃度の糖液を急速に投与すると、高血糖になる恐れがあります。

投与した栄養素が十分代謝されるように、通常24時間かけて一定の速度で投与します。

離脱期も同様に、投与量を徐々に落としていきます。

急にTPNを中止すると、糖質の補給がなくなり、低血糖を起こすことがあります。

TPN離脱後は、末梢静脈栄養や経腸栄養を併用しながら、経口栄養へと移行していきます。


中心静脈栄養の主な合併症

感染症

中心静脈栄養を使用している際に、最も起こりやすいトラブルは感染症です。

チューブ挿入部の皮膚からの汚染や輸液セットからの汚染など、様々な原因から感染症を起こしてしまうことがあります。

このように、カテーテルを長期間に渡って挿入することによるカテーテル感染の可能性がある点には注意が必要です。

血管や血液への感染によって、敗血性ショックを起こしてしまう可能性もあるので要注意です。

そのため、挿入部の発赤・腫脹・熱感・発熱の有無などに関しては入念に観察します。


血栓

血管に刺したカテーテルが刺激となり、血栓ができやすくなります。

血栓ができて血管が詰まってしまうことを血栓症と呼びますが、血栓が肺や脳内の血管まで飛んで詰まってしまうと命に関わることもあるので要注意です。

具体的な症状として以下のようなものが挙げられます。発熱

腫れ
痛み
皮膚が青くなる
むくみ
点滴の落ちが悪くなる


低血糖・高血糖

通常の食事で栄養を摂取する場合と比べて、中心静脈栄養では血糖値の変動が起きやすいです。

高濃度糖質の投与により容易に高血糖状態となります。

また、患者の基礎疾患や使用薬剤によってはさらに高血糖のリスクが高まります。

嘔吐・意識障害・尿量の変化・喉の渇きなどが見られた場合は要注意です。

TPNを開始する際は導入期(馴らし期間)を設け、血糖値をモニタリングしながら徐々に投与量を増やしていきます。

反対に、TPNからの離脱時には低血糖を起こす可能性があります。

急な中止は避け、経口摂取・経腸栄養・末梢静脈栄養を併用しながら徐々に減量します。


代謝異常

 TPNのみでの栄養管理では、多くの栄養素(アミノ酸、脂肪、グルコース、電解質など)を静脈内に直接投与するため、代謝異常が起こりやすくなります。

血糖値の異常、水・電解質異常、酸塩基平衡異常などは、比較的高頻度に認められます。


高トリグリセリド血症

中心静脈栄養では、カロリー摂取や栄養バランスの観点から定期的に脂肪乳剤を投与することになります。

この影響で高脂血症になってしまうことを高トリグリセリド血症と言いますが、放置すると動脈硬化などに繋がってしまいます。

定期的に医師の診察を受け、発症しないように注視したりコントロールしていくことが非常に重要です。


ビタミン欠乏症、微量元素欠乏

ビタミンやミネラルは体内に溜め込むことができない性質を持つため、中心静脈栄養では不足しがちです。

また、亜鉛や銅などの必須微量元素が欠乏した状態を微量元素欠乏症と呼びますが、栄養補給を点滴に頼っているケースで発症しやすくなります。


カテーテルの自己抜去

誤ってカテーテルを抜いてしまうと出血や感染の原因になりますので、自己抜去しないように注意します。

カテーテルをテープで固定したり、安全ピンで輸液ルートを洋服に留めておくなどして予防することが大切です。

万が一抜けてしまった場合は点滴を中止し、医師や看護師に連絡して指示に従います。

カテーテルの自己抜去に関しては、特に認知症患者の患者は要注意です。

認知症患者は治療している意味合いを理解できず、本人が引き抜いてしまう可能性が高くなります。


物理的な閉塞

カテーテルや点滴ルートが捻れてしまうと、点滴がうまく落ちなくなることがあります。

このような物理的な閉塞はカテーテルなどを整えることで予防・解消できます。


バクテリアルトランスロケーション

バクテリアルトランスロケーションとは、腸管を使用しない状態が続くことで腸管への物理的な刺激が減少し、腸管の絨毛の短縮や酵素活性の低下、腸管粘膜のバリア機能低下などが生じることです。

そのような状態では腸管粘膜の透過性が亢進し、腸内に生息していた細菌が腸間膜リンパ節を経て肝臓や脾臓、腹腔へ拡がっていきます。

細菌による炎症が全身に波及すると敗血症に類似した症状を呈することがあり、大変危険な状態となります。


空気塞栓

中心静脈カテーテルから空気が入り込むと、肺や心臓、脳などで空気塞栓が生じる危険性があります。

致死的な状況となることもあり、重大な合併症です。

末梢静脈ルートからでもそのリスクはありますが、末梢静脈は心臓から遠い静脈からの気泡混入であるため、気泡は血流により徐々に吸収・拡散され、呼吸により体外へ排出されていき、空気塞栓をきたす可能性は高くはありません。

一方中心静脈カテーテルは、その先端が右心房の近くにあるため、混入してしまった気泡は代謝されることなくそのまま右心房に流入します。

心臓のポンプ機能で気泡が小さくなる場合もありますが、小さくならなかった場合は気泡がそのまま肺へ流れ、肺動脈や肺静脈中で肺塞栓を起こすことがあります。

空気が肺で詰まった場合には咳、呼吸困難、胸痛などが、脳で詰まった場合には痙攣、意識障害、麻痺などがみられます。


中心静脈栄養(IVH)の種類

中心静脈栄養(IVH)には、①「体外式カテーテル」、②「CVポート」、③「PICC」(ピック)の3種類があります。

体外式カテーテル

体外式カテーテルは、鎖骨、首、太ももの付け根から、心臓近くの太い静脈に管を通す方法です。

栄養剤や薬剤を投与する接続部は体外にあるため、自分の体から接続部がぶら下がった状態が目に映ります。

そのため、ストレスを感じやすい人もいます。

なお、入浴は可能ですが、接続部が濡れないように保護フィルムを貼るなど、準備が必要です。

接続部が濡れてしまった場合、濡れた部分を消毒しなくてはなりません。

体外式カテーテルは、一度作れば、長期で使用でき、点滴の針を刺すことがないため、治療に伴う本人の負担は軽くなります。

CVポート

CVポートは、自宅で栄養管理を行う人、通院などで継続して化学治療を行う人に用いる皮下埋め込み型の中心静脈栄養(IVH)です。

胸にポートを埋め込み、針をポートに刺します。体内に埋め込むため、見た目を気にすることがなく、日常生活を送ることが可能です。

ただし、CVポートによる治療が不要になった場合、ポートを取り出すための手術が必要になってきます。

PICC(ピック)

PICC(ピック)は、末梢静脈挿入型中心静脈カテーテルのことです。

針を刺すのは末梢静脈栄養と同様ですが、カテーテルの先端を心臓近くの大静脈まで持ってきます。

他の方法より挿入が簡単で、動脈や肺を傷付けるリスクが低い方法です。

一時的な食欲不振の人、頻繁に注射をする必要のある人、強い薬剤を投与する患者などに用いられています。

一般的な使用期間は、数週間から数ヵ月です。カテーテルはドレッシング材(医療用テープのこと)で保護をしなければなりません。

濡れないようにラップを巻き付けるなど対策を採れば、シャワーを浴びることができます。

体外に出ているカテーテルを引っ張らないように注意が必要です。


健康保険でカバー

中心静脈栄養は高度な医療行為なので、「医療費が高くなってしまうのでは?」という不安を持つ家族は少なくありません。

基本的に、中心静脈栄養において必要な治療は健康保険でカバーできます。

日本の健康保険制度には高額療養費制度があるため、自己負担額が数十万円に及ぶことはありません。

所得によって自己負担の上限額は変わりますが、一般的な現役並み所得の方であっても上限額は9万円程度で済みます。


在宅中心静脈栄養(HPN)

在宅中心静脈栄養は、HPN(Home Parenteral Nutrition)と呼ばれ、患者の家庭での治療や社会復帰を可能にする栄養療法です。

入院して病気の治療を行う必要がなく、状態が安定している患者や、通院が困難で在宅での栄養療法が必要になった患者に施行します。


中心静脈栄養(IVH)の余命

中心静脈栄養(IVH)は、延命治療に用いられる治療法のひとつです。

特に末期ガンの患者、食事が摂れなくなり、腸の機能が低下した高齢者などに使用します。

中心静脈栄養(IVH)では、平均で6~8ヵ月ほど余命が伸びると言われています。

秋田県横手市の「横手市立大森病院」による研究発表では、末梢点滴による平均余命は2.1ヵ月。中心静脈栄養(IVH)による平均余命はさらに延びて、7ヵ月となっています。


愛知県・名古屋市の中心静脈栄養(IVH)対応可の老人ホーム

中心静脈栄養(IVH)とは、食事が出来ず、胃ろうなどの措置も難しい場合に、点滴で栄養を送り込む医療ケアです。

中心静脈栄養は医療行為なので、医師や看護師しか行うことができません。

つまり、介護スタッフや介護福祉士が行うことはできない点には留意しておく必要があります。

そのため、もし中心静脈栄養が必要な患者が介護施設への入居を検討する場合は、看護師が24時間常駐している、もしくは医療機関併設の施設などを選ぶ必要があります。

あるいは、24時間体制で看護師が対応してくれる訪問看護ステーションと連携が取れている介護施設も選択肢となります。

介護医療院、看護小規模多機能型居宅介護施設など、施設によっては、医療と介護の垣根を低くした仕組みも作られています。

24時間対応の訪問介護ステーションと連携をしている介護施設など、ケアマネジャーやソーシャルワーカーなどに相談して、受け入れ先を探します。

中心静脈栄養が必要な方を受け入れる体制が整っている介護施設は多くありません。

愛知県の中心静脈栄養(IVH)対応可の老人ホームの相場は、 入居一時金が平均値で 44.5万円 、 中央値で 0.0万円 です。

 月額利用料は平均値で 15.5万円 、 中央値で 13.5万円 です。

名古屋市には現在189件の中心静脈栄養(IVH)対応可の老人ホームがあります。

名古屋市の中心静脈栄養(IVH)対応可の老人ホームの相場は、 入居一時金が平均値で 90.8万円 、 中央値で 15.0万円 です。

 月額利用料は平均値で 18.7万円 、 中央値で 16.2万円 です。