安藤ホセ「デートピア DTOPIA」を読んで
2025年(2024年下半期)第72回芥川賞受賞作の安藤ホセ「デートピア DTOPIA」は、私にとっては難解な作品で、最後まで読み通すのに忍耐力を要する小説でした。
文学作品には、好むと好まざるにかかわらず、作者の出自と生い立ちが反映されます。
安藤ホセ(あんどう ホセ)は、1994年東京都生まれ、血液型A型、黒人系アメリカ国籍の父親と日本人の母親との間に生まれた混血、モデルのような187cmの長身でスポーツマンのように颯爽とした容貌、若干31歳の小説家です。
小説を書き始めてわずか数作目にして芥川賞を受賞する以前の、2021年初作品から文学賞を受賞しています。
種々雑多な人種の交錯するアメリカであれば、彼は何ら特殊な存在ではありませんが、未だに混血が珍しいここ日本においては、彼はマイノリティーでありかつ、ほんの半世紀前までは、黒人を黒んぼとか土人といった差別用語で呼んでいた戦中派が社会の中心を形成していた時代とさほど変わらぬ現在のコミュニティーでも差別される立場でありました。
このような背景が、彼の小説のブラックミックス、アイデンティティーへの拘り、マイノリティ差別の問題への鋭い切り込みの原点になったのではないかと思われます。
父親が米国人であったから、米国で過ごしたというわけではなく、彼は、普通の小中学校、高校、大学と一貫して日本で過ごしています。
大学では文学部に進学し、映画に関心が強く、映画製作やシナリオ執筆も試みていましたが、一人で完結する小説に転向したということです。
2024年、フランス領ポリネシアのボラ・ボラ島で開催された「DTOPIA」は、各国から選抜された、Mr.L.A.、Mr.ロンドンなど10人の男たちが一人の白人女性ミスユニバースを奪いあう恋愛リアリティショーでした。
Date1からDate10まで、全10エピソードにわたるショーの撮影には40台ものカメラが使用されます。
視聴者たちは、島の隅々から、あるいは、空中、水中を回遊しながら出演者たちを捉え、絶えず追跡し、撮影された画像は編集を絶えず繰り返され、ショーとして消費され続けます。
日本代表のMr東京こと井矢汽水(いやきすい)通称キース「おまえ」と物語の語り手であるMTF(男性から女性への性転換者)「モモ」は中学校時代の 幼おさな馴な染じみ でした。
「モモ」は日本人とポリネシア系の混血です。
「おまえ」は中学時代、からだの成長を止めたいと言う「モモ」の片方の 睾こう丸がん をカッターナイフで摘出しました。
10年以上を経て、2人は「DTOPIA」の収録で再会します。
語り手の視点が奇妙に不安定であることを指摘する書評があります。
語り手「モモ」の一人称視点、視聴者の視点に重ねた三人称視点、「おまえ」を主人公とした二人称視点と、唐突に切り替わるため、小説の流れが捉えにくいと言われます。
加えて、人種、性差別、植民地主義、親子関係、等々矢継ぎ早に現代の世界、社会、歴史上の問題点を次々と読者に投げかけて来るスピードに、読者は混乱し、ついていけなくなる面もあります。
恋愛ショー「DTOPIA」と同様、安易に消費される主題、思想、構想、主張、等々を拒絶するこの小説の文章構造を支持する書評もあります。
作者は作中で「『バービー』『オッペンハイマー』『哀れなるものたち』『アメリカン・フィクション』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』といった映画はどれも、二十世紀に白人が残した負の遺産をセルフ懺悔するコンセプトを持っていた。」と言い切ります。
作中で、機関銃のように放たれるこのようなフレーズが心に残ります。

