畠山丑雄の「叫び」を読んで


畠山丑雄(はたけやま うしお)の第174回芥川賞受賞作「叫び」を読みました。

ハードブックの本書はさほど厚くないので、人によっては1日で読んでしまえるボリュームかもしれません。


あらすじ

主人公の早野ひかるは、大阪府茨木市で働く地方公務員です。

デートを重ねていた女性と同棲するために、大阪府茨木市に引っ越してきました。

ところが、女性は早野の前から突然その姿を消してしまいます。

早野は、この失恋をきっかけに荒んだ生活を送っていました。

そんな折、ある夜、遠くから聞こえる鐘の音に導かれ、生活保護を受けている老齢の男と出会います。

彼は銅鐸を鋳造しながら独自の思想を語る人物でした。 

この男性を早野は「先生」と呼び、師として慕うようになります。

「先生」の指導のもと、早野は銅鐸づくりを学び、さらに先生の勧めもあって、その土地の歴史を調べるようになります。

早野は次第に先生の思想に傾倒していきます。

早野は歴史を調べていくなかで、アマチュア天文家だった川又青年の存在を知ります。

かつて、この土地の川沿いには、阿片(アヘン)の原材料となる罌粟(ケシ)畑が広がっていたことが分かりました。

川又青年はその才能を見込まれ、罌粟(けし)の売り先である満州へと渡り、現地で罌粟栽培を指導したのでした。

川又青年は「陛下への花束」を編むために満州で罌粟栽培に関わり、「紀元2600年記念万博(1940年)」を心待ちにしていた人物でした。

早野は次第に彼に強い共感を抱き、自己を重ね始めるようになります。

早野は銅鐸鋳造体験会で、川又青年の話などをきっかけにして、知り合った女性・長田しおりに惹かれていくが、その関係もどこか不安定です。

早野は、しおりから、娘と風呂に入りたがったり、娘のデートについてくるどうしようもない父親の話を聞かされながらも、交流を深めていきます。

物語は、現代の大阪万博と、戦前の川又青年がいた頃の千九百四十年万博を交錯させながら進行していきます。

早野は、先生の指示に従って、奇妙な方法で万博の入場券を手に入れました。

彼は、長田しおりと大阪万博の会場へ訪れますが、その日会場を訪れた天皇陛下を一目見ようとする大勢の人々の中に、川又青年の姿を認めます。

早野は、人をかき分け、川又青年に近づこうとして、人々の列の前へ出たところで警察に取り押さえられました。

ラストでは、現実と幻想が入り混じったような世界が描かれています。